なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「フォロー・ミー」 Follow Me! (1972)

製作:ハル・B・ウォリス
戯曲:ピーター・シェイファー
脚本:ピーター・シェイファー
撮影:クリストファー・チャリス
音楽:ジョン・バリー
出演:ミア・ファロー
トポル
マイケル・ジェイストン
マーガレット・ローリングス
アネット・クロスビー
ダドリー・フォスター
マイケル・アルドリッジ
マイケル・バリントン
ニール・マッカーシー
イギリス映画/93分/カラー作品
いやあ、実にチャーミングな映画である。『第三の男』('48)や『オリバー!』('68)などで有名な英国映画界の巨匠キャロル・リードの遺作なのだが、しかし当時66歳になる大ベテランの作品とは思えないほどフレッシュな瑞々しさと爽やかさ!ほんわかと寓話めいたユーモラスなタッチも素敵だし、ちょっとだけマニアックなロンドンの観光名所をたっぷりと楽しめるのも嬉しい。それでいて、ジョン・バリーのセンチメンタルな音楽スコアが、どことなく切なくて甘酸っぱいムードを高める。当時はイギリスやアメリカよりも日本でヒットしたそうだが、なるほど、確かにこのロマンティックな愛らしさは日本人好みかもしれませんな。
ロンドンのビジネス街にオフィスを構える一流の公認会計士チャールズ(マイケル・ジェイストン)は、このところ大きな心配事を抱えており、居ても立っても居られず市内の探偵事務所を訪れる。 調べて欲しいのは妻ベリンダ(ミア・ファロー)のこと。アメリカ人の彼女はイギリス生活に馴染めず、最近は朝から晩まで外出して家を留守にしているらしい。帰りが深夜になることもザラだ。いったい外で何をしているのか?きっと男がいるに違いない!心配で心配でたまらないチャールズは、探偵事務所の代表メイヒュー氏(ダドリー・フォスター)に妻の身辺調査を依頼し、経験豊富な調査員スクランプトン氏(マイケル・バリントン)が担当することになる。
それから暫くして、白いコートを着て白い帽子を被った、やたらとマカロンを勧めてくる風変わりな男性が、チャールズのオフィスをアポなしで来訪する。男性の名前はジュリアン・クリストフォルー(トポル)。名前もちょっと変わっている。全く要領を得ない世間話を、全く脈絡もなく続けるクリストフォルーに苛立ち、オフィスから追い出そうとするチャールズだったが、よくよく話を聞いてみると、事故で怪我をしたスクランプトン氏に代わって調査を担当する代理の私立探偵だった。結果報告を急かす気の短いチャールズに、クリストフォルーはベリンダとの馴れ初めを訊ねる。話はそれからだと。
勉強が得意で博識で几帳面な上流階級の優等生チャールズは、周囲が薦めてくる退屈な女性との結婚など全く興味なかったのだが、ある時ふらりと立ち寄ったレストランで働くベリンダに恋をしてしまう。生まれも育ちもカリフォルニアのヒッピーで、友達と一緒にインドへ旅行したついでにイギリスへ流れ着いたという彼女は、自由奔放で好奇心が旺盛な庶民の娘だった。上流階級の凝り固まったお嬢さまと違って、チャールズにとってベリンダは教育のし甲斐があるダイヤの原石だったのだ。ベリンダもまた、クラシック音楽や美術などに造詣が深く、色々なことを教えてくれる博識なチャールズに惹かれたが、しかし結婚した途端に状況は一変してしまう。イギリス上流階級の伝統的なマナーやしきたりについて行けず、いつも自分だけ周囲から浮いてしまうベリンダ。そんな彼女をチャールズはサポートしてくれるどころか、上流階級の妻らしい振る舞いを一方的に押し付けてくる。あれこれと口やかましい彼を「まるで校長先生」と揶揄するベリンダは、家の中の息苦しい生活のことも「ここは学校みたい」と不満を漏らす。それじゃあ奥さんが気の毒だと呆れるクリストフォルーは、ベリンダに「若くてハンサムな外交官風」の恋人がいるとチャールズに報告する。
やっぱり!そうだったのか!と怒り心頭で自宅へ帰ったチャールズ。興奮した様子で問いただす夫に、ベリンダは外出先で「気になる男性」がいることを認める。それは少し前のこと。いつものように息抜きのため散歩へ出かけたベリンダは、見知らぬ男性がずっと後を付けてくることに気が付く。ふと視線の先に目をやると、にっこり微笑み返す風変わりな男性の姿が。それは、白いコートに白い帽子を被って、なぜかいつもマカロンを食べている人だった。えっ、それは…!驚いて動揺するチャールズ。そう、どう考えたってそれはクリストフォルーのことだ。ベリンダ曰く、外出するたびに後を付いてくる男性に妙な親近感を覚え、やがて視線や表情や態度などで会話をするようになったのだという。明るくて無邪気でひょうきんな彼は、寂しくて孤独なベリンダの心を優しく慰めてくれた。いつしか外出するのが楽しみになったというベリンダ。確かに浮気はしていない。しかしあいつは彼女の心を盗んでしまった。逆上したチャールズはクリストフォルーの自宅へ押しかけるのだが、しかしそこで思いがけない展開が待ち受けていた…。
さながらヒギンズ教授症候群。今風に言えばモラハラ夫みたいなものだろうか。要するに、若くて教養の足りないベリンダを自分よりも劣った存在だと決めつけ、ヒギンズ教授が花売り娘イライザを一流のレディに仕立てたのと同じように、俺様が教育することで俺様好みの女に育てて進ぜようと考えたわけですな、このチャールズという人は。なんたる傲慢、なんたる偽善、なんたる自己中。そりゃベリンダならずとも嫌になるってもんでしょう。なので、彼女から何かを吸収しようというつもりなどないし、彼女の意思や意見を尊重しようというつもりも全くない。確かに彼女への愛情はあるのかもしれないが、しかしそれは勝手な押し売りみたいなもんである。これぞまさしく、とんだ有難迷惑。それでも本人にまるで悪気のないところが痛し痒しで、だからこそベリンダも憎み切れないのであろう。チャールズに少しでも歩み寄る気持ちがあれば、夫婦関係だって恐らく円満になるはず。決して悪い人じゃないんだから。そんな窮屈で頑ななチャールズの石頭をショック療法で柔らかくし、夫婦がお互いに対等な関係で足りない部分を補い合うこと、共に手を取り支え合いながら人生を歩むことの大切さを気付かせるのが、全身白づくめの天使みたいな変人オジサン、クリストフォルーというわけだ。
このクリストフォルーとベリンダの「お散歩」が、またなんとも微笑ましいこと!まるでサンレント映画でも見ているかの如く、身振り手振りだけの暖かでユーモラスな心の触れ合いが描かれていく。ジョン・バリーのほのかのセンチメンタルな音楽スコアに乗せて、2人が軽やかな足取りで楽しげに歩いていく、'70年代初頭の美しいロンドンの街並みもすごく魅力的!ハンプトン・コート宮殿の迷路園やコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ・ハウス、ロンドン近郊のウィンザー・サファリパークなどなど、いわゆるガイドブックの巻頭ページに出てくるような定番どころを、あえてちょっとだけ外した観光名所のチョイスもセンスが良い。見ているだけで思わず気分もウキウキワクワク。ブルーレイの高画質なんかで鑑賞すると尚更のこと、今すぐにでもロンドンへ行きたくなってしまう。そうなるとは分かっていても、心温まる粋なハッピーエンドだって実に気持ちが良い。何度でも繰り返し見たくなる小品佳作だ。
ちなみに、当初の企画では監督にマイク・ニコルズ、主演にはジュリー・アンドリュースの名前が挙がっていたのだとか。また、一時はエリザベス・テイラーとリチャード・バートンの夫婦を主演に、ポール・スコフィールドかダーク・ボガードを共演にという計画もあったそうだ。恐らくテイラーがベリンダでバートンがチャールズ、スコフィールドもしくはボガードがクリストフォルーという配役だったのだろう。いやあ、それじゃあまりにも生々しすぎますってば(笑)。巷では様々な異論もあるようだが、やはりベリンダ役は情緒不安定気味で繊細な天然系の不思議ちゃん、ミア・ファローで大正解でしょう。あのどこか幼くて未熟さを残すピュアなキャラだからこそ、ストーカー紛いの挙動不審なオジサン、クリストフォルーと心通じ合うことが出来るわけですよ。それはクリストフォルー役のトポルとて同じこと。見るからに浮世離れした変人っぽさがあってこそ、あの人を食ったようなキャラクターが成立するのだ。いかにも杓子定規で堅苦しい、でもそんな自分の殻を破りたいとも秘かに思っているチャールズを、いかにも小役人的な個性のマイケル・ジェイストンが演じたのも良かった。キャスティングのセンスも抜群である。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語・日本語吹替/字幕:日本語/地域コード:A/時間:93分/発売元:キングレコード
特典:オリジナル予告編
by nakachan1045
| 2023-02-14 00:59
| 映画
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