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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「獣人ゴリラ男」 Ladrón de Cadáveres (1957)

「獣人ゴリラ男」 Ladrón de Cadáveres (1957)_f0367483_16535820.jpg
監督:フェルナンド・メンデス
製作:セルジオ・コーマン
脚本:フェルナンド・メンデス
   アレハンドロ・ヴェルビッツキー
撮影:ヴィクトル・エレーラ
音楽:フェデリコ・ルイス
出演:コルンバ・ドミンゲス
   クロックス・アルヴァラード
   ウォルフ・ルビンスキー
   カルロス・リケルメ
   アルトゥーロ・マルティネス
   エドゥアルド・アルカラス
   ギレルモ・エルナンデス(ロボ・ネグロ)
   イェリエ・ベイルーテ
   アルベルト・カターラ
   リー・モーガン
   イグナシオ・ナヴァーロ
   アレハンドロ・クルーズ(ブラック・シャドウ)
メキシコ映画/79分/モノクロ映画




メキシカン・ホラーの黄金時代はここから始まった…とも言われる作品である。もともとメキシコでは、'30年代に『魔人ドラキュラ』('31)をはじめとするハリウッドのユニバーサル・ホラーが大変な人気を集め、その影響から'30年代半ばに国産ホラー映画も作られるようになるのだが、残念ながら大きなムーブメントには至らなかった。その後、'50年代にテレビが普及すると、派手なマスクを被った覆面レスラー(ルチャドール)が活躍するプロレス=ルチャ・リブレがテレビ中継を通じて国民的な人気を得るようになる。そのブームは映画界へも波及し、覆面レスラーを主人公にしたルチャドール映画が量産されるようになったのだが、それらの映画にはヒーローの敵役として吸血鬼やミイラ男などのモンスターがしばしば登場。これがメキシコでホラー映画が受け入れられる下地を作ったとも言われている。

そうした中、チャノ・ウレタ監督による正統派のゴシック・ホラー映画『El Monstro resucitado(甦った怪物)』('53)が公開され、それまでホラー映画不毛の地だったメキシコで時ならぬヒットを記録する。ウレタ監督は続く『La Bruja(魔女)』('54)でもホラー映画で当たりを取るのだが、しかし本格的にブームの口火を切ったのはフェルナンド・メンデス監督の『獣人ゴリラ男』('57)だった。なにしろ、斜陽と呼ばれた当時のメキシコ映画界を本作が復活させたと言われるほどの爆発的な大ヒットとなり、普段あまりメキシコ映画とは縁のないヨーロッパや日本にまで配給されたのである。西部劇からコメディ、ミュージカルまで幅広いジャンルを手掛ける娯楽職人だったメンデス監督は、本作の大成功をきっかけにホラー映画の巨匠と呼ばれるようになり、メキシカン・ホラーの金字塔との評価も高い『El Vampiro(吸血鬼)』('57)シリーズなど数々の名作を生み出すことに。これにチャノ・ウレタ監督やラファエル・バレドン監督なども加わり、'50年代後半から'60年代にかけてメキシカン・ホラーの黄金時代が築き上げられたのである。

舞台は現代のメキシコ。警察のカルロス・ロブレス刑事(クロックス・アルヴァラード)は、このところ相次いでいる不可解な連続殺人事件の捜査に行き詰まっていた。犠牲者はいずれも屈強なプロレスラーばかり。しかも、発見された彼らの遺体はどれも脳みそが抜き取られていた。一体なぜなのか?どうやら犯人は高度な医療の知識と技術を備えているようだが、しかし犯行の動機も手口も皆目見当がつかない。マスコミや大衆は猟奇的な事件の話題で大騒ぎ。警察上層部からも早期の事件解決を!とせっつかれる中、ロブレス刑事は市内のレスリングジムに潜入捜査官を送り込むなどしていたが、しかし犯人へつながる手がかりは全く掴めなかった。

犯人の正体は狂気の天才外科医ドン・パンチート(カルロス・リケルメ)。強靭な肉体を持つプロレスラーの頭部に野生動物の脳を移植することで、最強の人類を造り出そうとの野望に燃えるドン・パンチートは、下男フェリペ(イェリエ・ベイルーテ)と助手ルビオ(アルベルト・カターラ)の協力を得て、有望なプロレスラーたちを次々と殺しては移植手術と蘇生術を施していたのだが、いつも最終段階で脳が拒絶反応を示すのだった。どうして失敗ばかりしてしまうのか。考えあぐねたドン・パンチートは、ようやく解決の糸口を導き出す。そうだ、屈強なプロレスラーに負けない肉体を持つ動物の脳を移植すればよいのだと。

そんなある日、ロブレス刑事と同郷の友人ギレルモ(ウォルフ・ルビンスキー)が田舎から上京してくる。ルチャドールを目指している彼に、知人のプロレス事務所を紹介するロブレス刑事。そこで知り合った事務員の美女ルシア(コルンバ・ドミンゲス)に一目惚れしたギレルモは、何度断られても諦めず積極的にアタックした末、やがて相思相愛の仲になるのだった。一方、上層部から捜査の進展がなければ左遷すると脅されたロブレス刑事は、禁じ手とも言うべき秘策を思いつく。ギレルモをおとりに使って犯人をおびき寄せようというのだ。しかし、まかり間違えばギレルモが命を落としかねない。万が一の時に責任はとれるのか?と署長(エドゥアルド・アルカラス)は猛反対するが、しかしギレルモ本人はリスクを承知の上で引き受けることにする。

「吸血鬼」というリングネームで覆面レスラーとしてデビューし、その圧倒的な強さで快進撃を続けていくギレルモ。ロブレス刑事の目論見通り、ドン・パンチート一味はギレルモを次のターゲットに定める。ところが、犯人を捕らえるため警察は万全の警備態勢を敷いているはずだったが、その裏をかいたドン・パンチートの巧妙な策略によって、なんとギレルモは試合途中で原因不明の怪死を遂げてしまう。ガックリと肩を落とすロブレス刑事。その頃、ギレルモの遺体を盗み出したドン・パンチートは、これまでの失敗の教訓を生かして、プロレスラーに負けない肉体を持つ動物ゴリラの脳を移植していた。手術の結果は大成功。遂に夢だった最強の人類を造り出したドン・パンチートは、その常人離れした強さを証明するため、ギレルモを謎の覆面レスラーとしてリングへ送り込む。ところが、試合中に興奮したギレルモは理性を失って暴走し、みるみるうちに毛むくじゃらのゴリラ男へと変身。観客が大パニックに陥る中、ドン・パンチートを殺してレスリング会場を飛び出したゴリラ男ギレルモは、愛するルシアを誘拐して逃走しようとするのだが…?

ストーリーのベースはメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』。脳みそをゴリラと入れ替えたはずのギレルモに、なぜ手術前の記憶があってルシアを誘拐するのか?という大きな疑問は残るものの、まあ、この手の古き良きB級ホラー映画に合理性を求めるのも無理筋ってもんでしょう。そもそも、人間の頭部に動物の脳を移植するという設定からして荒唐無稽ですからね。ユニバーサル・ホラーから影響を受けたであろうフェルナンド・メンデス監督の演出はなかなかスタイリッシュ。雰囲気的には'40~'50年代のSFホラー物を彷彿とさせるような印象だ。天才外科医ドン・パンチートの研究室の美術セットも良く出来ている。デザインも非常にモダンだ。

とはいえ、恐らく本作の最大の問題はモンスター要素よりもレスリング要素の方が明らかに大きく、ホラー映画としての見せ場に著しく乏しいという点であろう。肝心のゴリラ男が登場するのもラストの10~15分程度。本編の半分以上はレスリングの試合かトレーニング、ギレルモとルシアのラブロマンスで占められている。50年代当時のルチャ・リブレを楽しめるという意味では貴重なのかもしれないし、恐らく劇場公開時にメキシコで大ヒットした理由のひとつでもあるのだろうが、しかし筆者のように大してプロレスに関心のないホラー映画ファンにとっては大きなマイナス要素である。

キャスト・クレジット上の主演はルシア役のコルンバ・ドミンゲス。メキシコ映画界の巨匠エミリオ・ロドリゲスの元妻にしてミューズでもあった彼女は、本作の出演者の中では最も知名度の高い大物スターだった。実質的な主役であるギレルモ役のウォルフ・ルビンスキーは、ラトヴィア出身の元プロレスラー。「ラトヴィアの狼」とも呼ばれる人気レスラーだったが、しかし試合中の怪我で引退を余儀なくされたことから、その知名度と端正なルックスを活かして映画スターへと転身した人だった。実は、ロブレス刑事役のクロックス・アルヴァラードも元プロレスラーで、アステカ帝国の勇者がミイラとなって甦るホラー・アドベンチャー『La Momia Azteca(アステカのミイラ)』('57)シリーズでも知られる俳優だ。

なお、日本では出所不明の怪しげなマスター素材を使用した画質の悪いDVDしか出ていない本作だが、アメリカではカルト映画専門レーベルのMVD Visualからオフィシャル版のブルーレイが発売中。マスター素材の詳細な情報は明記されていないものの、オリジナルネガからレストアしたと言われても不思議ではないくらいの超高画質に仕上がっている。惜しむらくは、パッケージにPCMと記載されている音声が実際はドルデジだったことか。ちなみに、ブルーレイは日本未公開の『El Escapulario』('68)というメキシコ映画がカップリング収録されているのだが、こちらもホラー映画というよりはゴーストストーリー仕立てのキリスト教啓蒙映画といった感じで、やはり純然たるホラー映画を期待すると肩透かしを食らってしまう。

評価(5点満点):★★★☆☆

参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)※「Mexican Horror Classics Double Feature」収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.37:1)/1080p/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:スペイン語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:79分/発売元:MVD Visual/VCI
特典:映画史家デヴィッド・ウィットによる解説ビデオ('22年制作・約19分)

「獣人ゴリラ男」 Ladrón de Cadáveres (1957)_f0367483_21021194.jpg

by nakachan1045 | 2023-02-15 01:04 | 映画 | Comments(0)

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