なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「暗黒暗殺指令」 Good Guys Wear Black (1978)

製作:アラン・F・ボダー
製作総指揮:マイケル・レオーネ
原案:ジョセフ・フレイリー
脚本:ブルース・コーン
マーク・メドフ
撮影:ボブ・ステッドマン
武術:チャック・ノリス
アーロン・ノリス
音楽:クレイグ・サファン
出演:チャック・ノリス
アン・アーチャー
ジェームズ・フランシスカス
ロイド・ヘインズ
ダナ・アンドリュース
スーン・テック=オー
ラリー・ケイシー
トニー・マンニーノ
特別出演:ジム・バッカス
アメリカ映画/96分/カラー作品


それでも映画スターになるという夢を諦めなかったノリスは、友人ジョセフ・フレイリーの書いたスクリプトを各映画会社に売り込んだものの、文字通り誰からも相手にされなかったのだそうだ。しかし、最後に門戸を叩いたマー・ヴィスタ・プロダクションズの社長アラン・F・ボダーと面会した際、「全米の空手人口は400万人で、その全員が自分のことを知っている。もしその半分でも映画を見に来たら、予算100万ドルの映画でも600万ドルは稼げる」と言ってアピールしたところ、この売り文句が功を奏して企画にゴーサインが出る。それが本作『暗黒殺人指令』だったというわけだ。

物語の始まりは1973年。野心家の上院議員コンラッド・モーガン(ジェームズ・フランシスカス)は、自らの手でベトナム戦争を終結させるべく、北ベトナムの代表者とフランスのパリで極秘の密約を交わす。アメリカが交換条件を受け入れるならば、北ベトナムは和平協定を締結する用意があるというのだ。その交換条件とは、これまで北ベトナム側に多大な被害をもたらしたCIA最強の特殊暗殺部隊「ブラック・タイガー」を生贄として差し出すこと。要するに、和平協定を結んで大勢の米軍捕虜を解放する代わりに、「ブラック・タイガー」のメンバーを皆殺しにさせろというのだ。それを聞いたCIA高官マレー・サウンダース(ロイド・ヘインズ)は猛抗議するものの、「和平協定を実現すれば国民の英雄になれる」との功名心に目のくらんだモーガン上院議員は、捕虜収容施設から米国人を救出するという偽りのミッションを口実に、「ブラック・タイガー」を北ベトナム側の指定した場所へ送り込む。

もちろん、収容施設にいたのは米軍捕虜ではなく大勢の北ベトナム兵。いわゆる待ち伏せ作戦だ。さすがの特殊暗殺部隊も多勢に無勢では勝ち目がない。しかし、北ベトナム側はもちろんのことモーガン上院議員にとっても計算外だったのは、「ブラック・タイガー」のリーダーが百戦錬磨の英雄ジョン・T・ブッカー少佐(チャック・ノリス)だったことだ。敵兵を片っ端から倒したブッカー少佐は、辛うじて生き残った4名の部下を引き連れて集合地点へと到達。しかし、そこで待っているはずの味方の輸送ヘリは影も形もなかった。自分たちが罠にはめられたことに気付いたブッカー少佐は、そのまま部下たちと共に自力でジャングルを脱出し、なんとか南側へと辿り着くのだった。

それから5年後のアメリカ。「ブラック・タイガー」の忌まわしい極秘任務は闇へと葬り去られ、犠牲になったメンバーはイエメンで戦死したことになっている。彼らを罠にはめたモーガン上院議員は順調に出世を重ね、次期国務長官に指名されていた。無事に帰国したブッカー少佐はカリフォルニアに腰を落ち着け、今ではUCLAの政治学教授として教鞭を執りつつ、アマチュアのカーレーサーとしても活躍中だ。そんなある日、彼のもとにマーガレット(アン・アーチャー)という女性ジャーナリストが訪れ、5年前にベトナムで起きたことを教えて欲しいと訊ねる。最高機密扱いの情報をどこで知ったのか?訝しがるブッカー大佐。とある政府高官がワシントンの夕食会で口を滑らせたと説明するマーガレットだったが、しかしそれ以上のことは職業倫理に反するので口外出来ないという。5年前にアメリカ側の誰かが自分たちを売ったことは間違いない。しかし、今さら過去をほじくり返して何になる?自分は今の平穏な暮らしを壊したくない。そう言って、ブッカー大佐はマーガレットの質問に口をつぐむ。

一方その頃、ブッカー大佐の元上司でもあるCIA高官サウンダースは、生き残った「ブラック・タイガー」の元メンバーたちが次々と不審死を遂げていることに気付く。確かに5年前の出来事とはいえ、政府が敵に身内を売ったことが世間に知れたら一大事だ。機密情報の漏洩を恐れた政府上層部の何者かが、殺し屋を使って口封じをしているに違いない。その殺し屋はブッカー大佐の命も狙ったが、しかし間一髪で命拾いをしていた。サウンダースに呼び出されて事情を理解した彼は、正体不明の黒幕に気付かれぬよう仲間たちへ警告するため、自分が各人のもとへ直接出向くことにする。ベトナムでの真相を調べているマーガレットも途中から合流。しかし、何者かが送り込んだ暗殺者が常に先回りしており、かつての戦友らは次々とブッカー大佐の目の前で殺されていく。果たして神出鬼没の暗殺者の正体とは?その裏で糸を引いている黒幕は誰なのか…?

ウォーターゲート事件が全米を震撼させ、自国政府に対するアメリカ国民の信頼が地に堕ちた'70年代、そのウォーターゲート事件を題材にした『大統領の陰謀』('76)を筆頭に、『パララックス・ビュー』('74)や『コンドル』('75)、『ドミノ・ターゲット』('77)などなど、アメリカでは自国政府による陰謀や犯罪を描いた政治サスペンス映画が大流行したのだが、本作もそのトレンドに乗った映画のひとつだったと言えよう。さらに、劇中で大学教授となったブッカー大佐が、「あの戦争は決して始めてはならなかったし、我々があの国に介入したことも間違いだった」とベトナム戦争を強く非難するように、本作は東西冷戦下におけるアメリカの帝国主義へも厳しい目を向けている。極めて'70年代らしい反権力的な映画だ。

監督に起用されたのは、クリント・イーストウッド主演の『奴らを高く吊るせ!』('68)や『ダーティハリー2』('73)を大ヒットさせたテッド・ポスト。彼のようにメジャーなヒットメーカーが、まだ無名に等しいチャック・ノリスの主演作を手掛けたのは意外だが、どうやら映画の中だけではなく製作舞台裏でも交換条件があったようだ。実は当時、後にバート・ランカスター主演で映画化される戦争映画『戦場』('78)の企画を温めていたものの、資金を提供するスポンサー探しで行き詰まっていたポスト監督。マー・ヴィスタ・プロダクションズから本作のオファーを打診された彼は、その『戦場』への出資を交換条件として引き受けることにしたのだそうだ。予算100万ドルのB級映画ではあったものの、リアリズムに徹したポスト監督の演出は極めてハードボイルド。クライマックスでも安易な復讐のカタルシスへ走ることなく、権力の厚い壁に立ち向かうことの難しさや厳しさをきっちりと描いている。『愛は静けさの中に』('86)の原作戯曲「ちいさき神の、作りし子ら」で、トニー賞やオビー賞に輝いた劇作家マーク・メドフが脚本に参加しているのも要注目だ。

全体的にアクション・シーンが少なめなのは、もしかするとチャック・ノリス・ファンにとって不満の残る点かもしれない。おかげで役者としての実力不足が際立ってしまったことは否めないものの、しかし当時のノリスはアクション俳優ではなく「アクションも出来る役者」として認められたかったらしく、それゆえ本作ではあえて得意の格闘技を最小限に抑えたようだ。確かに決して演技が上手いとは言えないが、しかし前作『チャック・ノリスのブレイカー・ブレイカー』に比べるとなかり上達しているし、少なくとも真剣に取り組む本人の気合や覚悟のようなものはヒシヒシと伝わってくる。なので、ついつい贔屓目に見てしまいたくなりますな(笑)。また、ベトナム戦争を巡る国家間の思惑が絡むという設定が、その後の『地獄のヒーロー』シリーズ(特に2作目)のプロトタイプとなっているという点においても、チャック・ノリスのファンにとっては見逃せない作品と言えるだろう。『エクスペンダブルズ2』('12)でノリスが演じた傭兵ブッカーは本作へのオマージュだが、それだけ彼にとっても思い入れの深い映画だったようだ。

ベトナムでの自国政府の犯罪行為を調べるためブッカー少佐に接触し、やがて恋に落ちる女性ジャーナリストのマーガレットを演じているのが、当時まだ新進の若手女優だったアン・アーチャー。出世作『危険な情事』('87)の良妻賢母役も素敵だったが、しかしこの頃の美しさはマジでハンパありませんな!悪徳政治家モーガン上院議員には、『続・猿の惑星』('70)でもテッド・ポスト監督と組んだジェームズ・フランシスカス。本来は甘いマスクの二枚目スターだが、この手の卑劣な権力者を演じさせても抜群に巧い。そのほか、高級アパートのドアマン役に声優としても有名な大物喜劇俳優ジム・バッカス、モーガン上院議員の右腕ハロルズに『ローラ殺人事件』('44)や『我等の生涯の最良の年』('46)の名優ダナ・アンドリュース、「ブラック・タイガー」のメンバーだったベトナム人ミン役に『地獄のヒーロー2』('85)でもノリスと共演する有名な韓国系俳優スーン・テック=オーなど、中高年の映画ファンには懐かしい顔ぶれが揃っている。

なお、やはり主演俳優チャック・ノリスの一般的な知名度が低かったせいか、完成後もなかなか配給会社が付かなかったという本作。そこで、プロデューサー陣は自力で全米各地の映画館をブッキングして回り、ノリス自身も上映される先々で無料の空手講習会を開くなど、積極的にプロモーション活動を行ったという。そうした努力の甲斐あって、予算100万ドルの本作は興行収入1800万ドルを超える大ヒットを記録。これでようやく映画スターとしての興行価値を証明したノリスは、やがてハリウッドを代表するアクション俳優への階段を駆け上がっていくこととなる。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※『フォース・オブ・ワン』とのカップリング
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:96分/発売元:Cinedigm Home Entertainment
特典:ドキュメンタリー「Making of Good Guys Wear Black」('12年制作・約9分)/テッド・ポスト監督インタビュー('12年制作・約19分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2023-02-17 12:57
| 映画
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