なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「Diamante Lobo(ダイヤモンド・ウルフ)」 (1976)
製作:メナハム・ゴーラン
製作補:ヨーラム・グローバス
原案:ジョン・フォンセカ
脚本:フランク・クレイマー(ジャンフランコ・パロリーニ)
撮影:サンドロ・マンコリ
音楽:サンテ・マリア・ロミテッリ
出演:リー・ヴァン・クリーフ
ジャック・パランス
リチャード・ブーン
シビル・ダニング
リーフ・ギャレット
ロバート・リプトン
コディ・パランス
イアン・サンダー
プニーナ・ゴーラン(プニーナ・ローゼンブルム)
イタリア・イスラエル合作/96分/カラー作品
'60~'70年代に世界中でブームを呼んだマカロニ・ウエスタン。その全盛期には年間70本以上ものイタリア産西部劇映画が製作され、西部劇の本場アメリカでもヒットを飛ばしたわけだが、しかし'70年代半ばともなるとブームは急速に衰退してしまった。'76年に公開されたマカロニ・ウエスタンはたったの3本。そのうちの1本が本作だった。製作を手掛けたのは、後にアメリカのマイナーな独立系製作会社キャノン・フィルムを買収し、'80年代のハリウッド映画界を席巻することになるイスラエル出身のメナハム・ゴーランとヨーラム・グローバス。実は撮影もイスラエルで行われており、おかげで数多のマカロニ・ウエスタンとは一味違う作品に仕上がっている。
西部開拓時代のアメリカ。のどかで平和な田舎町ジュノ・シティに、お尋ね者の凶悪な強盗犯サム・クレイトン(ジャック・パランス)の一味がやって来る。町の酒場で乱暴狼藉を働いた挙句、気に食わない客を殺して立ち去っていく無法者集団。正義感の強い酒場の女主人ジェニー(シビル・ダニング)は「あんな奴らに好き放題されて黙っているの!?」と訴えるが、しかし弱腰で事なかれ主義の保安官(リチャード・ブーン)や治安判事らは「触らぬ神に祟りなし」を決め込む。だが、法を犯した者は罪を償わねばならない。そこで立ち上がったのが、住民からの信頼も厚い教会のジョン牧師(リー・ヴァン・クリーフ)だ。かつては名うてのガンマンだったものの、今や信仰のために非暴力主義を貫いているジョン牧師は、丸腰のままクレイトン一味と対峙し、人殺しの下手人であるクレイトンの弟ジェス(ロバート・リプトン)を捕らえる。そして、正当な裁きを受けさせるため、ジェスを保安官と治安判事に引き渡すのだった。ところが、クレイトンは手下を引き連れて町を襲撃し、ジョン牧師をハチの巣にして殺害する。
悲しみに暮れるジュノ・シティの人々。中でも、ジョン牧師を実の父親のように慕っていたジェニーの息子ジョニー(リーフ・ギャレット)は、ショックのあまり口がきけなくなってしまった。ジョン牧師には血を分けた兄弟ルイスがいる。相当な凄腕のガンマンだったそうだが、今は引退してメキシコに住んでいるらしい。ジョン牧師からそう聞いていたジョニーは、無法者たちの目を盗んで町を脱出し、一路メキシコへと向かう。旅路の果てにたどり着いた小さな町で、ようやくルイスとめぐり逢ったジョニーはビックリ仰天する。なぜなら、亡くなったジョン牧師と瓜二つだったのだ。実は双子の兄弟だったジョン牧師とルイス(リー・ヴァン・クリーフ2役)。ジョニーから事情を知らされた彼は、クレイトン一味を倒してジョン牧師の敵を討つため、ジョニーと一緒にジュノ・シティへ急ぐ。
その頃、ジュノ・シティはクレイトン一味の支配下に置かれていた。保安官は我が身可愛さに彼らの悪事を見逃し、治安判事も娘を人質に取られて手も足も出ない。すっかり我が物顔で有頂天となった無法者どもは、酒場の女性たちを次々とレイプしていく。「いますぐやめなさい!私はクレイトンの息子の母親よ!」と啖呵を切るジェニー。実は、かつてよその町に住んでいたジェニーは、クレイトンにレイプされた過去があったのだ。その時に出来た子供がジョニーだという。戸惑いながらも「この俺に息子がいたのか!」と歓喜の声を上げるクレイトン。するとそこへ、牧師の格好をしたルイスが姿を現す。ジョン牧師が生き返ったものと思って恐れ戦くクレイトンの手下たちを、ルイスはジョニーの協力で次々と罠にかけて葬り去っていく。町の人々も銃を手に立ち上がる。いよいよ追い詰められる無法者たち。その混乱の中、クレイトンはジェニーとジョニーを拉致して逃げ出そうとするのだが…?
冒頭で述べた通りイスラエルでロケ撮影された本作。もはや見た目の雰囲気からして、明らかにその他のマカロニ・ウエスタンとは違う。それはそれで別に構わないのだが、しかし西部開拓時代の田舎町を再現したセットはやけにチャチで作り物然としているし、登場人物たちの衣装やカツラもまるでコスプレみたいに安っぽい。見よう見まねで急ごしらえしたであろうことが丸分かりだ。そのうえ、イスラエル現地で調達したスタントマンやエキストラの芝居も素人臭く、この手のアクション映画の撮影に慣れていないことが伺える。なにしろ、イスラエル自体が1948年に誕生した新しい国。当時はまだ映画製作の歴史も浅かったため、やはり経験不足が裏目に出てしまったのだろう。クレイトンの手下を演じる悪役俳優たちもまるで迫力なし。フェルナンド・サンチョやらロマーノ・プッポやらアルド・サンブレルやらと、アクの強いコワモテ俳優たちを見慣れたマカロニ・ファンにしてみれば、あまりにもショボすぎるってなもんだろう。
監督はフランク・クレイマーことジャンフランコ・パロリーニ。そう、快作『西部悪人伝』('70)に始まる「サバタ」三部作で有名なイタリアの娯楽職人だ。ウエスタンのみならず戦争アクションやスパイ・アクションにも才能を発揮した人だが、しかしながら本作に限っては全くいいところなし。所々でセルジオ・レオーネ風のスタイリッシュな演出を見せているが、しかし全体的には著しく精彩を欠いており、これがあの「サバタ」シリーズの生みの親の仕事とはにわかに信じがたい。撮影監督もパロリーニ作品の常連組サンドロ・マンコリだが、やはりイスラエルの慣れない環境では本領を発揮しづらかったのだろうか。確かに衰退期のマカロニ・ウエスタンは冴えない作品が多かったものの、その中でも本作は恐らくダントツに出来が悪い。
主演はハリウッド西部劇の悪役からマカロニ西部劇のヒーローへと転身したリー・ヴァン・クリーフと、当時はイタリアへの出稼ぎ仕事も多かったジャック・パランス。悪役出身のベテラン・ハリウッド俳優同士の顔合わせは嬉しいものの、さすがに作品の出来が悪ければ宝の持ち腐れである。保安官役で『アラモ』('60)や『太陽の中の対決』('67)などの西部劇俳優リチャード・ブーンも登場するが、彼なんぞは撮影現場の酷さに呆れて途中降板したそうで、後に本作のことを「私の出演作で最低の映画」とすら呼んでいる。肝っ玉母さんの酒場マダムにシビル・ダニングというのは珍しいキャスティング。その息子ジョニーには子役時代のリーフ・ギャレットも顔を出している。クレイトンの一番年下の弟ジークには、ジャック・パランスの息子コディ。また、プニーナ・ゴーランの名前でクレジットされている酒場女チェスティ役のプニーナ・ローゼンブルムは、後にイスラエルの政治家となった当時の人気ファッション・モデルで、メナハム・ゴーランとは縁もゆかりもない。
とりあえず、ゴーラン&グローバスの初期プロデュース作品として、一時は名匠だったジャンフランコ・パロリーニの後期作品として、マニアックな映画ファンであれば一度くらい見ておいても損はないかもしれない。日本では劇場未公開・テレビ未放送・ビデオソフト未発売だが、アメリカでは'22年にブルーレイが発売されたばかり。一応、本編は2K解像度でレストアされているそうだが、全体的にソフトフォーカスがキツめなせいもあってか、ツルピカの高画質を期待すると当てが外れるだろう。特典には熱狂的なマカロニ・マニアであるアレックス・コックス監督の音声解説も収録されているが、しかし映画自体にあまり褒めるところがないため、やけに愚痴っぽいコメントばかりになっているのがかえって面白い。
評価(5点満点):★☆☆☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:96分/発売元:Kino Lorber/MGM Studios
特典:アレックス・コックス監督による音声解説/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2023-04-01 11:02
| 映画
|
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