なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「世紀の怪物/タランチュラの襲撃」 Tarantula (1955)

製作:ウィリアム・アランド
原案:ジャック・アーノルド
ロバート・M・フレスコ
脚本:ロバート・M・フレスコ
マーティン・バークレイ
撮影:ジョージ・ロビンソン
特撮:クリフォード・ストーン
音楽監修:ジョセフ・ガーシェンソン
出演:ジョン・エイガー
マラ・コーデイ
レオ・G・キャロル
ネスター・ペイヴァ
ロス・エリオット
エドウィン・ランド
レイモンド・ベイリー
ハンク・パターソン
バート・ホランド
スティーヴ・ダレル
クリント・イーストウッド
アメリカ映画/80分/モノクロ作品


舞台はアリゾナ州の田舎町デザート・ロック。郊外の砂漠で身元不明の男性の遺体が発見され、警察で検視を行ったところ生物学者エリック・ジェイコブスであることが判明する。町で唯一の開業医マット・ヘイスティングス(ジョン・エイガー)は、アンドリュース保安官(ネスター・ペイヴァ)から「意見を聞きたい」と呼び出されて遺体を確認。ジェイコブスは町はずれに住む生物学の権威ディーマー教授(レオ・G・キャロル)の右腕で、ヘイスティングス医師も過去に面識はあったのだが、しかし目の前に横たわる遺体はほぼ別人だった。顔や手足が醜く歪んで肥大化しており、それはまるで先端巨大症のようだった。しかし、先端巨大症がここまで進行するには何年もかかる。アンドリュース保安官が1週間ほど前にジェイコブスを見かけた時は何の異変もなかった。さらに、遺体の引き取りに訪れたディーマー教授も4日前から急にジェイコブスの体調が悪化したと証言する。しかし、そんな症例をヘイスティングス医師は聞いたことがない。彼はディーマー教授が何か隠しているのではないかと疑う。

ヘイスティングス医師の直感は正しかった。ディーマー教授とジェイコブス、そして助手の医学生ポール・ランドの3人は人類の食糧危機を解決するため、生物を巨大化する薬品を開発していたのだが、しかし好奇心旺盛なジェイコブスとランドの2人はその薬品を自らに投与していたのだ。動物や昆虫を用いた実験では薬品が成果を挙げており、ディーマー教授のラボには急速に巨大化したネズミやウサギ、タランチュラなどが飼育されている。しかしこれを人間に投与すると、ジェイコブスのように短期間で先端巨大症を発症し、精神が錯乱して凶暴化した末に死んでしまうのだ。助手のランドも同じような症状が出ており、いよいよ発狂してディーマー教授に襲い掛かる。激しい格闘の末、ランドは症状の悪化で死んでしまうのだが、その間際に彼はディーマー教授の腕に注射を打って薬品を投与していた。そのうえ、研究所の設備がメチャクチャに壊され、巨大化したタランチュラが砂漠地帯へと逃げ出してしまう。

その頃、デザート・ロックの町を若い女性が訪れる。ディーマー教授の研究所で助手として雇われた学生ステファニー・クレイトン(マラ・コーデイ)だ。研究所の近くを通るバスは最終便が出てしまい、町で唯一のタクシーも出払っていることから、ヘイスティングス医師が彼女を送り届けることになる。お互いにひと目で好意を抱くヘイスティングス医師とステファニー。タイミングの悪い訪問者に慌てるディーマー教授は、研究所の火災が設備の故障によるものと虚偽の説明をし、さらにランドが研究所を辞めてしまったと嘘をつく。

こうしてディーマー教授のもとで働き始めたステファニーだが、しかし教授が開発した薬品による実験動物の巨大化が異常に速いことに戸惑い、さらに教授の容姿がだんだんと歪み始めて性格も攻撃的になってきたことに不安を抱く。彼女から事情を聴いたヘイスティングス医師は、ますますディーマー教授の研究を怪しむようになる。一方、近隣の牧場で家畜が食い殺される事件が発生。アンドリュース保安官と共に現場へ向かったヘイスティングス医師は、その異様な光景に戦慄する。なぜなら、まるでライオンやハイエナに食らわれたように骨だけが綺麗に残されていたのである。しかし、ここはアメリカ。ライオンもハイエナもいない。近くで発見された大量の白い液体を鑑識に回したところ、なんとタランチュラの毒だった。やがて超巨大化したタランチュラが砂漠に出現し、近隣の住民を襲い始める…。

同じくアメリカ南部の砂漠地帯を舞台にしていることもあって、ワーナーの『放射能X』と似たような雰囲気のある作品。恐らく、巨大生物映画の先駆けとして実際に『放射能X』を参考にした部分も多かったはずだ。その一方で大きく違うのは、『放射能X』が実物大の巨大アリをハリボテで制作して使用したのに対し、本作では本物のタランチュラを合成処理で巨大に見せている点であろう。この原始的な特撮がなかなか巧い。実はミニチュアのハリボテ・バージョンも作ってはいたのだが、しかし劇中ではタランチュラが窓から家の中を覗くシーンなど一部でのみ使用。それ以外は、シンプルだが細部まで丹念に計算されたフィルムの重ね焼きによって、本物のタランチュラが巨大化して砂漠を闊歩する様子を表現している。本作がモノクロフィルムで撮影され、なおかつタランチュラの登場が主に夜間シーンであることも、合成による不自然さを誤魔化すうえで功を奏したと言えよう。おかげで、ハリボテを使うよりも遥かにリアルで迫力のある映像に仕上がっている。

原案と演出を手掛けたジャック・アーノルドは、『大アマゾンの半魚人』('54)や『縮みゆく人間』('57)などを大ヒットさせ、'50年代のSF映画ブームを牽引する存在だった映画監督。加えて、プロデューサーのウィリアム・アランドは『イット・ケイム・フロム・アウター・スペース』('53)以来、アーノルド監督のSF映画を一貫して手掛けており、なおかつジョセフ・M・ニューマン監督の『宇宙水爆戦』('55)やユージン・ローリー監督の『ニューヨークの怪人』('58)など、他にも数多くのSF映画を世に送り出していた。ジャンルに理解と造詣の深いアランドがプロデューサーだったからこそ、アーノルド監督は自由に創造の翼を羽ばたかすことが出来たとも言われるが、一方で本作の主演俳優ジョン・エイガーは「むしろ積極的にアイディアを出したのはアランドの方だった」とも振り返っている。いずれにせよ、どちらも'50年代のSF映画ブームを陰で支えた立役者、お互いになくてはならないビジネス・パートナーだったと言えよう。

その主演俳優ジョン・エイガーは、ジョン・フォードやジョン・ウェインの西部劇や戦争映画に欠かせないタフガイ俳優としてお馴染みだが、当時はB級SF映画のスターとしても引っ張りだこだった。ジャック・アーノルド×ウィリアム・アランドのコンビ作への出演は『半魚人の逆襲』('55)に続いてこれが2作目。ステファニー役のマラ・コーデイも、初めての大役だった本作で強い印象を残したためか、『黒い蠍』('57)に『人類危機一髪!巨大怪鳥の爪』('57)と立て続けに巨大生物映画に出演している。その他、ヒッチコック映画の常連だった英国俳優レオ・G・キャロルや『大アマゾンの半魚人』のルーカス船長役で知られるネスター・ペイヴァなどが出演。また、クライマックスでは空軍戦闘機のパイロット役で無名時代のクリント・イーストウッドも顔出す。

ちなみに、どちらもユニバーサル専属俳優だったマラ・コーデイとイーストウッドは、当時から非常に親しかったのだとか。俳優リチャード・ロングとの結婚を機に映画界を引退したコーデイだが、しかし'74年に夫と死別。そんな折にイーストウッドから女優復帰を誘われ、カムバック作となった『ガントレット』('77)から『ルーキー』('90)に至るまで、イーストウッド作品の常連女優として活動することになる。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/時間:80分/発売元:Universal Studios
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2023-12-05 17:43
| 映画
|
Comments(4)
Commented
by
na
at 2023-12-30 13:03
Commented
by
na
at 2025-08-17 17:49
今作で使用されている本物のタランチュラのように本物の虫やトカゲなどの爬虫類、動物を使って巨大生物を演出する撮影技法は「トカゲ特撮」と呼ばれていますが現在は動物愛護の観点から、まず使われることのない技術ですよね。
自分は実際にトカゲ特撮で使った動物が死んだり殺処分されたりしているので使われなくなったのは仕方がないと思います。そもそも動物は人間の思い通りに演技はしてくれないので撮影が大変ですし。それに現代ならCGの方がはるかにリアルな映像が撮れて思い通りに撮影できます。
ひでゆきさんはどう思いますか?
自分は実際にトカゲ特撮で使った動物が死んだり殺処分されたりしているので使われなくなったのは仕方がないと思います。そもそも動物は人間の思い通りに演技はしてくれないので撮影が大変ですし。それに現代ならCGの方がはるかにリアルな映像が撮れて思い通りに撮影できます。
ひでゆきさんはどう思いますか?
0
> naさん
確かに、昔の特撮映画だと巨大生物と戦うシーンなんかで、爬虫類などの動物を本当に傷つけるような場面も見受けられますからね。あれは見ていて違う意味でハラハラするし、あまり気分の良いものではないですし。
確かに、昔の特撮映画だと巨大生物と戦うシーンなんかで、爬虫類などの動物を本当に傷つけるような場面も見受けられますからね。あれは見ていて違う意味でハラハラするし、あまり気分の良いものではないですし。
なかざわひでゆきさんは実在の生物をそのまま大きくしただけのモンスターと実在の生物とはデザインが違うモンスターどっちが良いと思いますか?
自分は実在の生物とはデザインが違うモンスターの方が良いと思います。
この映画の巨大タランチュラも(造形物とポスターでは)普通の目が8つの蜘蛛と違って目が2つなのがすごく印象に残ります。
見た目に関しては実在の生物とはデザインが違うモンスターの方が印象に残りやすいと思います。
自分は実在の生物とはデザインが違うモンスターの方が良いと思います。
この映画の巨大タランチュラも(造形物とポスターでは)普通の目が8つの蜘蛛と違って目が2つなのがすごく印象に残ります。
見た目に関しては実在の生物とはデザインが違うモンスターの方が印象に残りやすいと思います。
> naさん
自分もどちらかというと、実在する生物と違う…というか、映画的なインパクトを優先してデザインされたモンスターの方が好きですね。そこはやはり映画ですから。
自分もどちらかというと、実在する生物と違う…というか、映画的なインパクトを優先してデザインされたモンスターの方が好きですね。そこはやはり映画ですから。
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