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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「La donna della domenica(日曜日の女性)」 (1975)

「La donna della domenica(日曜日の女性)」 (1975)_f0367483_21040748.jpg
監督:ルイジ・コメンチーニ
製作:ロベルト・インファシェッリ
   マルチェロ・ダミーコ
製作総指揮:パオロ・インファシェッリ
原作:カルロ・フルッテロ
   フランコ・ルチェンティーニ
脚本:アージェ&スカルペッリ
   (アジェノーレ・インクロッチ
   フリオ・スカルペッリ)
撮影:ルチアーノ・トヴォリ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:マルチェロ・マストロヤンニ
   ジャクリーン・ビセット
   ジャン=ルイ・トラティニャン
   アルド・レジアーニ
   マリア・テレサ・アルバーニ
   オメロ・アントヌッティ
   ジジ・バリスタ
   レナート・チェチリア
   クラウディオ・ゴーラ
   フランコ・ネッビア
   リーナ・ヴォロンギ
特別出演:ピーノ・カルーソ
イタリア・フランス合作/109分/カラー作品




マルチェロ・マストロヤンニにジャクリーン・ビセットにジャン=ルイ・トラティニャンと、伊米仏のトップスターがズラリと顔を揃えた作品にも関わらず、残念ながら日本未公開に終わってしまったイタリア映画である。しかも、監督は『パンと恋と夢』('53)や『ブーべの恋人』('63)が日本でも大ヒットした「イタリア式コメディ」の巨匠ルイジ・コメンチーニ。そのうえ、エットーレ・スコラやマリオ・モニチェッリ、ピエトロ・ジェルミなどの巨匠たちから圧倒的に信頼され、モニチェッリの『明日に生きる』('63)と『ゴールデン・ハンター』('65)ではアカデミー脚本賞候補にもなったイタリアを代表する脚本家コンビ、アージェ&スカルペッリがシナリオを書いている。エンニオ・モリコーネの音楽スコアもファンの間では有名だ。にも関わらず、どうして日本には入ってこないままなのか…?と首を傾げたくなるところだが、しかし実際に本編を見るとなんとなく理解できるかもしれない。

舞台はイタリア北部の豊かな工業都市トリノ。ある晩、落ちぶれた建築家ガローネ(クラウディオ・ゴーラ)が自宅アパートで殺害される。凶器は石で出来た巨大なペニスのオブジェ。捜査を担当する地元警察のサンタマリア警部(マルチェロ・マストロヤンニ)は、容疑者があまりにも多いことに困惑する。というのも、ガローネはトリノでも有名な嫌われ者だったからだ。その図太い神経で社交界にズカズカと土足で出入りし、上流階級の人々とも付き合いがあったガローネだが、しかし若い女性と見れば手当たり次第に露骨なセクハラを繰り返し、他人のプライベートにも図々しく口を出し、意地汚く金持ちのおこぼれに与ろうとする彼は、まさに社交界の鼻つまみ者だったのである。

するとそこへ、勤め先をクビになった召使いベニート(オメロ・アントヌッティ)が、ガローネの殺害計画を匂わせるような手紙の下書きを警察に持ち込む。その勤め先とはトリノでも随一の実業家ヴィットリオ・ドシオ(マリオ・フェレーロ)の邸宅、手紙を書いたのはその妻アンナ・カルラ(ジャクリーン・ビセット)だった。しかも、手紙の宛先はアンナ・カルラの大親友であるマッシモ・カンピ(ジャン=ルイ・トラティニャン)。ドシオ家と肩を並べる実業家ファミリー、カンピ家の御曹司である。つまり、アンナ・カルラとマッシモが共謀してガローネを殺したという告発だ。トリノの社交界を代表するビッグネームたちが絡んでいることから、警察長官(ジュゼッペ・アントレッリ)は「捜査は慎重に慎重を期すこと」「絶対に上流階級の方々の機嫌を損ねてはならない」と指示し、サンタマリア警部に加えて同僚デ・パルマ警部(ピーノ・カルーソ)のツートップで指揮に当たるよう命じる。

仕事をクビにされた逆恨みからベニートが雇い主を告発したことは明らかで、なおかつ「ガローネを社交界から排除すべき」という手紙の記述が必ずしも殺害計画に当たるとは言えないものの、しかし告発を受理したからには調べないわけにはいかない。自分たちが最重要容疑者だと知ったアンナ・カルラとマッシモは苦笑いをするが、さすがに洒落にならないということも十分理解していた。とはいえ、こちらは無実なのだから何もせず堂々と構えていればよろしい。他にもガローネから営業妨害を受けていた画廊オーナーのヴォレーロ(ジジ・バリスタ)など容疑者はいくらでもいるじゃないか、と特権階級らしい余裕を見せるアンナ・カルラとマッシモ。すると、市役所に勤務する若い男性職員レッロ(アルド・レジアーニ)が秘かに犯人捜しを始める。

実はマッシモとレッロは同性愛カップル。しかし、当然ながらイタリア社会で同性愛は重大なタブーのひとつだ。レッロ自身は周囲にカミングアウトしているものの、しかし社会的地位のあるマッシモはクローゼットのままなので、普段から人目を避けて会わねばならない。ただでさえ日陰の身に甘んじなくてはならないうえ、大富豪の御曹司であるマッシモと一介の庶民に過ぎない自分の身分格差に劣等感を覚えていたレッロは、真犯人を突き止めてマッシモの容疑を晴らすことで、彼の役に立ちたいと考えたのである。

一方、サンタマリア警部は殺人現場から立ち去る姿を目撃されたブロンド女性を探す。雨合羽を着ていたというその女性は背が高く、手にはヒトデの絵柄が入ったスポーツバッグと筒状の物を持っていたらしい。やがて、アンナ・カルラの知人であるイネス・タブッソ伯爵夫人(リーナ・ヴォロンギ)の妹ヴィルジニア(マリア・テレサ・アルバーニ)が、自宅の敷地内でその容疑者のブロンド女性を見かけたと証言する。実は、由緒正しいタブッソ家の邸宅は広大なため、手入れの行き届かない草むらが売春婦たちの「仕事場」になっていた。イネスは以前から警察に対処を求めていたのだが、その売春婦たちの中に例のブロンド女性がいたというのだ。そこで警察は売春婦の一斉検挙を実施。容疑者のものと思われるスポーツバッグと雨合羽を発見したものの、しかし肝心のブロンド女性は見つからず、売春婦たちもそんな女は知らないという。その頃、市役所でガローネが設計を手掛けた物件を調べていたレッロは、ある土地の売買に彼が関わっていたことに気付くのだが、それ以来、何者かに命を狙われるようになる…。

というわけで、中身はアガサ・クリスティ風味のマーダー・ミステリー。イタリア映画でマーダー・ミステリーと来れば、誰もが「ジャッロ」を思い浮かべるところだと思うが、残念ながら本作にジャッロ的な要素は殆どなし。そもそもマーダー・ミステリー自体が単なる話の糸口に過ぎず、ストーリーが進むにつれて犯人探しも謎解きも大して重要ではなくなっていく。むしろ本作は、トリノ社交界の嫌われ者が無残にも殺されたという事件をきっかけに、経済的に豊かで発展した北イタリアの風光明媚な古都トリノの、その美しい表層の裏に隠された醜い素顔を暴いていく社会風刺的なブラック・コメディと言えるだろう。っていうか、殺人の凶器がいきり立った巨大なペニス(の石像)という時点でかなり毒が効いているのだけれど(笑)。

かつてのサヴォイア公国およびサルディーニ王国の首都にして、ローマとミラノに次ぐイタリアで三番目の大都市。フィアットやアルファ・ロメオ、ランチアなどイタリアを代表する自動車メーカーの本拠地であり、古くからヨーロッパでも有数の貿易都市として栄えてきたトリノだが、その一方で当然ながら階級格差や経済格差も大きく、しかも貧困層の大半がシチリアからの移民だったりする。そうしたトリノならではの独特の因習やら社会問題やらが随所に織り込まれ、時にはジョークのネタにもなっているのだが、それゆえにイタリア人以外にはあまりピンとこないような要素も少なくない。題材があまりにもローカル過ぎるのだ。例えば、劇中でアンナ・カルラとマッシモは「ボストン」をどう発音するのかを巡ってたびたび論議を展開し、これがイタリア社交界に特有のスノッブな風習を揶揄したジョークとなっているらしいのだが、さすがに何が面白いのか部外者にはさっぱり分からない。コメディは言葉や文化の壁を越えるのが難しいとよく言われるが、本作などはその典型であろう。なるほど、日本へ輸入されなかった理由もそこら辺にあるのかもしれない。

豪華な主演キャストの中でもひと際目を引くのがジャクリーン・ビセット。当時はフランソワ・トリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』('73)やフィリップ・ド・ブロカの『おかしなおかしな大冒険』('73)などヨーロッパでの仕事が相次いでいた時期である。本作では大胆なヌードシーンもあるが、撮り方から察するに恐らくボディダブルであろう。真面目で温厚だけど実は女好きという、むっつりスケベのサンタマリア警部にマルチェロ・マストロヤンニというのも適役(笑)。特権階級ならではの尊大さとクローゼットゲイゆえのコンプレックスが交わって屈折したマッシモ役のジャン=ルイ・トラティニャンがまた上手い。

そのほか、『青い体験』('73)の神父ドン・チリッロ役でもお馴染みのピーノ・カルーソ、ピエトロ・ジェルミやマリオ・モニチェッリに重宝された個性派ジジ・バリスタ、ディノ・リージ作品の常連だったクラウディオ・ゴーラなど、「イタリア式コメディ」に欠かせない名優たちが脇を固める。また、『父 パードレ・パドローネ』('77)や『グッドモーニング・バビロン!』('87)などで、タヴィアーニ兄弟の描く頑固で不器用な父親像を体現したオメロ・アントヌッティが、自分をクビにしたアンナ・カルラを逆恨みする不真面目な不良召使いを演じているのも興味深い。

先述した通り日本では劇場未公開。それどころかテレビ放送もビデオ発売もされたことのない作品だが、海外ではイギリスを拠点とする新興ソフトメーカー、Radiance Filmsがアメリカとイギリスでブルーレイをリリースしている。オリジナル・ネガから2K解像度でデジタル修復されたという本編映像は、それこそ一点の曇りもない超クリアな高画質。もともと本作はテレビ放送を念頭に置いて、当時のテレビと同じスタンダードサイズで撮影され、映画館では上下をマスキングしたビスタサイズで上映されたのだが、ブルーレイには両方のバージョンを収録している。さらに、ミケランジェロ・アントニオーニやダリオ・アルジェントの作品でもお馴染みの撮影監督ルチアーノ・トヴォリのインタビューや、劇場公開時にジャン=ルイ・トラティニャンが本作のプロモーションのために出演したフランスのテレビ番組映像など、特典もそれなりに充実している。

評価(5点満点):★★★☆☆


参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/スタンダードサイズ(1.33:1)・ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0 DTS-HD Master Audio/言語:イタリア語/字幕:英語/地域コード:A・B/時間:109分/発売元:Radiance Films
特典:イタリア映画研究者リチャード・ダイヤーのインタビュー('22年制作・約18分)/撮影監督ルチアーノ・トヴォリのインタビュー('08年制作・約22分)/フリオ・スカルペッリの息子ジャコモ・スカルペッリのインタビュー('22年制作・約38分)/ジャン=ルイ・トラティニャンのテレビ映像('76年制作・約4分)/オリジナル劇場予告編



by nakachan1045 | 2024-02-28 00:36 | 映画 | Comments(0)

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