なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「The End of the World in Our Usual Bed in a Night Full of Rain(どしゃ降りの雨の夜にいつものベッドで迎える世界の終わり)」 (1978)

製作:ギル・シヴァ
製作総指揮:ハリー・コロンボ
脚本:リナ・ウェルトミュラー
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽:G・B・ペルゴレージ
ロベルト・デ・シモーネ
出演:ジャンカルロ・ジャンニーニ
キャンディス・バーゲン
マイケル・タッカー
マリオ・スカルペッタ
ルチオ・アメリオ
マッシモ・ウェルトミュラー
アンナ・パパ(アニー・パパ)
アリソン・タッカー
アン・バーン
フローラ・カラベッラ
アニタ・パルトリニエリ
ジュリアーナ・カルネセッキ
アリス・コロンボ・オクスマン
ジル・アイケンベリー
イリアナ・カラヴァーティ(リリ・カラーチ)
アメリカ・イタリア合作/104分/カラー作品


主人公はローマの古い高級アパートに住む1組の夫婦である。夫のパオロ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)は共産主義者のイタリア人ジャーナリストで、妻リジー(キャンディス・バーゲン)はフェミニストのアメリカ人フォトグラファー。かつてはお互いに狂おしいほど愛し合っていた2人だが、しかし今ではすっかり夫婦仲は冷めてしまっている。果たして、2人の間に何が起きたのか。同じ屋根の下で一緒に暮らしながら、しかし言葉を交わすことすら殆どなくなった2人の馴れ初めを、どこからともなく集まって来た夫婦の友人たちが振り返っていく。

それは、世界中で学生運動と左翼革命の嵐が吹き荒れた1968年。南イタリアの小さな村で伝統的な宗教行事が開催され、その華やかなパレードをひと目見ようと大勢の観光客が集まってくる。群衆の中にお互いを見つけ、ひと目で惹かれあうパオロとリジー。すると、村の若者が恋人らしき若い女性に暴力を振るい始める。それを見たリジーは止めに入るのだが、しかし今度は自分自身が逆上した若者に襲われてしまい、間一髪のところをパオロに助けられるのだった。当時のリジーはヨーロッパ旅行中の大学生。リベラルのフェミニストを自認する彼女は、パリで学生運動に参加したついでにイタリアへ寄ったところだった。ここはガチガチに保守的な南イタリアだぜ?君みたいなフェミニストが来る場所じゃないよ!と笑いながらリジーを揶揄うパオロ。さらに、階級闘争に情熱を注いできた筋金入りの共産主義者である彼は、よく見ると高級ブランド服で身を固めたリジーが富裕層のお嬢さまだと見抜き、彼女の政治活動を「金持ちの暇つぶし」に過ぎないと皮肉ってみせる。

痛いところを突かれてカチンと来るリジー。頭ごなしに正論で人を批判するインテリ男性特有の傲慢さに腹を立てた彼女は、押しの一手で口説き落とそうとするパオロを振り払い、母国アメリカのサンフランシスコへと戻ってしまう。ほどなくして、リジーは地元新聞社の報道カメラマンとして働くことに。すると、どこでどう調べたのか会社の前でパオロが待ち伏せしており、彼女の自宅まで後をつけてくる。それ以来、いくらリジーが無視をしても決して諦めず、根気強く「愛している」アピールを続けるパオロ。初めのうちこそ迷惑がっていたリジーだが、しかしもともとパオロは彼女の好きなタイプだし、なにより誠実で茶目っ気のある彼の性格も憎めない。いつしか彼女もまたパオロを深く愛するようになり、2人は結婚してローマで暮らすようになったのである。

ほどなくしてリジーは娘を出産。夫婦で協力しながら子供を育てていくのだが、その過程でお互いの価値観の違いが浮き彫りになっていく。もちろん、そんなこと最初から百も承知していたはずの2人。生まれも育ちもまるで正反対な彼らは、それゆえ物事に対する考え方も様々な点で異なっている。そのせいで恋人時代から何度も衝突してきたわけだが、しかし恋愛の真っ只中にある間はそれほど深刻な問題ではなかった。相手への反発よりも、相手を求める気持ちの方が強かったからだ。しかし、恋愛感情の熱が冷めるに従って相手への不満や苛立ちが増えていき、やがてそれは耐えられないほど大きくなっていく…。

しばしば『A Night Full of Rain』と簡略化されて呼ばれることの多い作品だが、正式には『The End of the World in Our Usual Bed in a Night Full of Rain』がフルタイトル。そういえば、代表作『流されて…』もイタリア語の原題は『Travolti da un insolito destino nell'azzurro mare d'agosto(8月の青い海の普通ではない運命に流されて)』だったが、物語の基本コンセプトを説明した長いタイトルはウェルトミュラー作品の定番であろう。それこそ次回作『愛の彷徨』('78)の原題なんか、『Un fatto di sangue nel comune di Siculiana fra due uomini per causa di una vedova. Si sospettano moventi politici. Amore-Morte-Shimmy. Lugano belle. Tarantelle. Tarallucci e vino(シクリアーナ市で2人の男が未亡人を巡って起こした流血事件、政治的動機が疑われる、愛と死とシミー、ルガーノ=ベル、タランテラ、タラルッチとワイン)』という、さすがにここまで来るとよく意味の分からなくなるような長さで、今もなお「世界で最も長い映画タイトル」としてギネスに認定されている。

閑話休題。貧しい労働者階級の出身でブルジョワ階級を忌み嫌う原理主義的な共産主義者ながら古き良き貴族的な優雅と贅沢を好み、人権意識の高い進歩派のはずがジェンダー観に限ってはマチズモ丸出しの保守的なイタリア男性パオロ。女性の地位向上を目指すフェミニストにして自由と平等を愛するリベラル派ながら実は生まれも育ちも保守的な富裕層のお嬢さまで、物質主義や拝金主義を真っ向から否定しつつも上質なブランド品を愛好するアメリカ女性リジー。どちらも矛盾の塊みたいな2人の男女が、お互いに最初から水と油でありながら強く惹かれあって結婚するも、愛の情熱が冷めた途端に夫婦の溝も深まっていく。それはさながら「愛」と「セックス」と「政治」を通して、革命の季節が過ぎ去った'70年代当時の社会とそこに生きる人間の矛盾を考察した作品と言えるだろう。

なるほど、そう考えると極めてウェルトミュラー監督らしい社会派の恋愛バトルコメディですな。激しくも情熱的な主人公たちによる愛の紆余曲折を主軸としつつ、画面のあちこちに神出鬼没で現れる彼らのエキセントリックな友人たちが、まるでギリシャ悲劇におけるコロスのごとき狂言回しとして説明や代弁を加えていくシナリオ構成は、あからさまに演劇的であると同時にフェリーニ的でもある。中でも特に、『81/2』('63)や『魂のジュリエッタ』('65)を彷彿とさせる場面は少なくない。そのフェリーニやヴィスコンティ、デ・シーカにも愛された名カメラマン、ジュゼッペ・ロトゥンノによるシンボリックで奥行きのあるカメラワークも印象的だ。それだけに興行的な大惨敗を喫したというのは残念だが、しかし大いに納得するところでもある。いや、これはハリウッドのメジャー・スタジオ作品としては前衛的過ぎますって(笑)。

主演は出世作『Mimì metallurgico ferito nell'onore(名誉を傷つけられた金属細工人ミミ)』('72)以来、ウェルトミュラー作品に欠かせないミューズ(?)となった名優ジャンカルロ・ジャンニーニと、'70年代のハリウッド映画を象徴するトレンディ女優キャンディス・バーゲンという豪華な顔合わせ。こういうイタリア男の欠点を煮詰めたような、しかしそれでいて何故か憎めなかったりするダメ男は、ジャンニーニが最も得意とする役どころと言えよう。対するキャンディス・バーゲンがまた、いかにもアメリカらしい現代的で都会的で洗練されたシックな女性像を体現しており、泥臭くてむさ苦しいジャンニーニと好対照なカップルを演じている。

そんな2人の愛の軌跡を周りで傍観し、毒のあるブラックユーモアで茶々を入れていく友人たちとして、ウェルトミュラー監督自身の友人たちが出演。後にウディ・アレン映画の常連として有名になるマイケル・タッカーとその妻ジル・アイケンベリー、娘のアリソン・タッカーが出ているのも興味深いし、当時イタリア映画界のセックス・シンボルとして注目されていた女優リリ・カラーチが、本名のイリアナ・カラヴァーティとして本人役で顔を出しているのも見逃せない。

というわけで、当初の期待とは裏腹に本作が全くの不入りとなったため、ワーナー・ブラザーズはウェルトミュラー監督との4本契約を白紙撤回。結果的に、これが最初で最後のハリウッド進出となってしまった。立て続けに公開されたソフィア・ローレン主演の『愛の彷徨』も同じく不発。こうして、世界中を熱狂させたリナ・ウェルトミュラー人気も呆気なく終焉を迎えてしまったのである。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:1/時間:104分/発売元:Warner Home Video
特典:オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2024-03-26 17:08
| 映画
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