なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「馬と呼ばれた男」 A Man Called Horse (1970)

製作:サンディ・ハワード
原作:ドロシー・M・ジョンソン
脚本:ジャック・デ・ウィット
撮影:ロバート・ハウザー
美術:フィル・バーバー
衣装:デニス・リントン・クラーク
音楽:レナード・ローゼンマン
出演:リチャード・ハリス
デイム・ジュディス・アンダーソン
ジーン・ガスコン
コリンナ・ツォペイ
マヌ・トゥポー
タマラ・ガリーナ
ダブ・テイラー
エディ・リトル・スカイ
マイケル・ベイスレオン
リナ・マリン
アメリカ映画/115分/カラー作品
かつてハリウッドの西部劇映画に出てくるアメリカ先住民といえば、善良な白人開拓民の生命を脅かす暴力的な野蛮人=加害者として描かれることが多かった。もちろん、実際はアメリカ先住民の方こそ、白人から理不尽に先祖代々の土地を奪われて大勢の仲間や家族を殺された被害者であったことはご存知の通り。要するに、往年の古き良きハリウッド西部劇というのは、マジョリティである白人にとって都合よく過去を美化した偽りの歴史=ファンタジーの上に成り立っていたのである。しかし、第二次世界大戦後のアメリカで映画にもリアリズムを求める風潮が強くなると、史実に基づいた公平な視点に立って西部開拓時代を描かんとする作品群=修正主義西部劇が台頭。おのずと、アメリカ先住民の描かれ方も大きく変化していくことになる。
そうした中で象徴的だったのは、アメリカ先住民をメインテーマにした3本の西部劇が'70年に相次いで公開されたことかもしれない。その3本とは、アメリカ先住民に育てられた白人男性の数奇な半生にベトナム反戦という同時代の空気を投影したアーサー・ペン監督の『小さな巨人』('70)、同じようにアメリカ軍が先住民を大量虐殺した西部開拓時代の「サンドクリークの虐殺」事件を通してベトナム戦争の米軍による残虐行為を批判したラルフ・ネルソン監督の『ソルジャー・ブルー』('70)、そしてアメリカ先住民の捕虜となった英国人男性が彼らの生き様や伝統文化を学び尊重することで部族の一員となっていく姿を描いた本作『馬と呼ばれた男』('70)である。
西部開拓時代のアメリカ。イギリスの名門貴族の家系に生まれ育った男性ジョン・モーガン(リチャード・ハリス)は、生まれた時から社会的地位も莫大な財産も約束された自分の人生をひどく退屈で面白味がないと感じ、生きる目的や刺激を求めて新大陸へとやって来たのだが、しかしここでもやることと言えば、金にものを言わせて召使いやガイドを雇って動物を狩ることくらいしかない。すっかり野鳥狩りにも飽きてしまった彼はセントルイスへ戻ろうとするが、その矢先にキャンプ地を先住民のスー族に襲撃される。捕虜としてスー族の集落へと拉致されたモーガン。全裸のまま首輪をはめられて柱に繋がれ、公衆の面前で様々な辱めを受けた彼は、はじめのうちこそ歯を食いしばって耐えていたものの、しかしまるで家畜の馬のように扱われることに苛立ちを募らせ、ついには怒りを爆発させる。私だって君たちと同じ人間だ!たとえ捕虜でも敬意を払うべきだろう?そう英語で激しく訴えるモーガン。言葉は分からなくとも言わんとすることは通じたのか、それ以来スー族の人々によるモーガンへの虐待行為はピタッと止まる。
スー族の酋長イエロー・ハンド(マヌ・トゥポー)の母親バファロー・カウ・ヘッド(デイム・ジュディス・アンダーソン)に飼われ、集落の様々な仕事を手伝うようになるモーガン。そのイエロー・ハンドにはランニング・ディア(コリンナ・ツォペイ)という美しい妹がおり、いつしかモーガンと彼女はお互いを意識し合うようになる。また、集落には英語を喋るバティース(ジーン・ガスコン)という白人と先住民の混血男性がいて、先住民の習慣も言葉も知らない異邦人モーガンの通訳兼ガイドとなる。そんなある時、モーガンはスー族と敵対するショショーニ族のスパイを倒し、その頭皮を剥がして戦利品として持ち帰ったところ、集落の人々からヒーローとして称えられる。思い切ってランニング・ディアとの結婚をイエロー・ハンドに申し入れたモーガンは、部族の一員となるための通過儀礼を受けることを条件に許可される。その通過儀礼とは、両胸に鉤爪を差して宙吊りになること。この凄まじい苦行に耐えた彼は、先住民の言葉で「馬」を意味するシュンカワカンという名前を与えられ、晴れてランニング・ディアと夫婦になるのだった。
こうして、スー族の伝統的な生活様式や価値観に親しんでいくことで、彼らの仲間として受け入れられていくモーガン。ところが、ショショーニ族の酋長ブラック・イーグル(エディ・リトル・スカイ)が、ランニング・ディアへの求婚を断られた腹いせにイエロー・ハンドの妻ソーン・ローズ(リナ・マリン)を拉致したことから、名誉を汚されたイエロー・ハンドは部族の掟に従って死ぬまで戦うことを宣言。ほどなくして、スー族とショショーニ族による全面戦争の火ぶたが切って落とされる。愛する妻ランニング・ディアを守るため、そして今や自身の故郷となった集落の人々を守るため、先頭に立って敵と戦っていくモーガンだったが…?
ということで、さながら『ダンス・ウィズ・ウルブス』('90)のご先祖様みたいな作品。主人公の白人男性が同化していく先住民がスー族という設定も同じである。先述したように、いわゆる修正主義西部劇の流れから誕生した映画であり、アメリカ先住民に対するステレオタイプな描写を排除し、彼らの伝統文化を忠実に再現するという目的のもとに作られているのだが、しかしよく見ていると先住民役を演じているのは白人やメキシコ系やカリブ系などがメインで、当事者のキャストはごく一部にしか過ぎない。また、マジョリティであるはずの白人が特殊な状況下でマイノリティの立場に置かれるという逆転現象によって、人種的な差別や偏見を逆説的に疑似体験させるという点でユニークだが、しかしその白人が部族の救世主的なリーダーになるというストーリー展開には、それが作り手の意図するところではないにせよ、白人至上主義的な価値観が物語の根底にあると受け取られかねないだろう。そういう意味で、恐らく当時としては挑戦的な企画だったかもしれないが、今となっては時代に色褪せてしまったことも否めない。
そんな本作が、実はイタリア産カンニバル映画のルーツとなったことは特筆しておくべきであろう。ルッジェロ・デオダート監督の大傑作『食人族』('80)を頂点として、'70~'80年代にかけて人気を博したイタリア産カンニバル映画。その原点となったウンベルト・レンツィ監督の『怪奇!魔境の裸族』('72)は、舞台を西部開拓時代のアメリカ大陸から20世紀の東南アジアへ移しただけで、基本的なストーリーは『馬と呼ばれた男』の間接的なリメイクに過ぎないのだ。それはレンツィ監督自身がハッキリと証言しており、本作の劇中に出てくるスー族の通過儀礼(両胸に刺した鉤爪から紐を通して宙吊りにする)も、後の『人喰族』('81)でちゃっかりとパクっている。要するに、本作がなければ一連のイタリア産カンニバル映画群も作られることはなかったかもしれないのだ。
主演のリチャード・ハリスは、ブリティッシュ・ニューウェーヴの名作『孤独の報酬』('63)でスターダムを駆け上がった英国映画スター。当時はハリウッドのミュージカル超大作『キャメロット』('67)を最後に暫く舞台へ専念し、ショーン・コネリー共演の『男の闘い』('70)で久しぶりに映画復帰したばかり。その『男の闘い』がまさかの不入りで先行きが心配されたが、立て続けに公開された本作の大ヒットで健在ぶりを示し、『クロムウェル』('70)や『ジャガーノート』('74)、『カサンドラ・クロス』('76)に『ワイルド・ギース』('78)などを次々と当てていくことになる。また、スー族酋長の母親バッファロー・カウ・ヘッドには『レベッカ』('40)のダンヴァース夫人役で有名な英国女優デイム・ジュディス・アンダーソン。また、主人公モーガンと結婚する酋長の妹ランニング・ディア役のコリンナ・ツォペイは、ミス・ユニバース出身のギリシャ人女優である。
日本ではリアルタイムで劇場公開され、かつては地上波テレビでも放送されていたが、しかしビデオソフト化されたことは一度もない本作。ちょうど昨年の6月にBSで放送されたようだが、それでも現状は滅多に見るチャンスのない作品のひとつだと言えよう。アメリカでは大手のパラマウントからブルーレイが発売中。画質はブルーレイとしてギリギリ及第点という感じだが、5.1chにリミックスされた音声トラックのサラウンド感はなかなかの迫力だ。惜しむらくは特典映像がゼロだということ。予告編すら収録されていないのは少々寂しい。
評価(5点満点):★★★☆☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:5.1ch DTS-HD Master Audio・2.0ch Dolby Digital Surround・2.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語・スペイン語・ドイツ語・南米スペイン語・フランス語/字幕:英語・スペイン語・オランダ語・ドイツ語・南米スペイン語・フランス語・デンマーク語・ノルウェー語・フィンランド語・スウェーデン語/地域コード:B/時間:115分/発売元:Paramount Home Video/CBS
特典:なし
by nakachan1045
| 2024-03-27 12:36
| 映画
|
Comments(0)
以前の記事
2026年 03月2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
最新のコメント
| > Matemuさん .. |
| by nakachan1045 at 13:14 |
| 2024/6/5に発売さ.. |
| by Matemu at 05:08 |
| この映画はデンマーク軍が.. |
| by na at 08:27 |
| ランドマスターは本当にか.. |
| by na at 17:53 |
| > にこらさん コメン.. |
| by nakachan1045 at 01:32 |
| なかざわ様 前にあった.. |
| by にこら at 19:32 |
| DVDリリースされてまし.. |
| by ken at 22:53 |
| > kenさん 書.. |
| by nakachan1045 at 16:23 |
| チプリアーニの作品中でも.. |
| by ken at 11:36 |
| ひでゆきさん、ありがとう.. |
| by na at 16:19 |
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
ハリウッド映画(544)70年代(355)
ホラー映画(287)
60年代(269)
80年代(217)
イタリア映画(186)
アクション(135)
ドラマ(120)
ダンス(117)
50年代(108)
イギリス映画(107)
サスペンス(106)
ポップス(106)
カルト映画(95)
30年代(68)
ロマンス(60)
40年代(59)
日本映画(58)
70年代音楽(58)
2020年代音楽(50)
SF映画(46)
コメディ(45)
80年代音楽(43)
フランス映画(42)
ノワール(41)
90年代(40)
ジャッロ(39)
1920年代(37)
ソウル(36)
西部劇(35)
K-POP(34)
香港映画(32)
エロス(28)
スペイン映画(26)
ドイツ映画(26)
ファンタジー(23)
歴史劇(21)
ミュージカル(21)
ワールド映画(21)
サウンドトラック(21)
戦争(20)
2010年代音楽(20)
アドベンチャー(19)
メキシコ映画(18)
イタリア映画音楽(18)
テレビ(18)
アニメーション(17)
ラテン(17)
2000年代音楽(15)
1910年代(15)
ルーマニアン・ポップス(15)
スパイ(14)
90年代音楽(14)
ロシア映画(13)
アナウンス(11)
60年代音楽(10)
カナダ映画(9)
フィリピン映画(9)
ラウンジ(9)
ロック(9)
ロシア音楽(8)
ジャズ(7)
青春(7)
バルカン・ポップス(7)
フリースタイル(5)
シットコム(5)
連続活劇(4)
2010年代(4)
イタロ・ディスコ(3)
パニック(3)
フレンチ・ポップ(3)
LGBT(3)
J-POP(3)
2000年代(3)
韓国映画(2)
アンダーグランド(2)
トルコ映画(2)
オーストラリア映画(2)
カントリー・ミュージック(2)
フランス映画音楽(2)
ヒップホップ(1)
2020年代(1)
サルサ(1)
民族音楽(1)
伝記映画(1)
シャンソン(1)
文芸(1)
ギャング(1)
1920年代音楽(1)
カントリー(1)
インド映画(1)
ギリシャ音楽(1)
ブラジル音楽(1)
音楽DVD(1)
音楽ライブ(1)
ブログパーツ
最新の記事
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-03-10 00:30 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-03-09 00:34 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-03-08 00:53 |
| 「1968」 (1968) .. |
| at 2026-03-07 15:05 |
| 「L'Intégrale d.. |
| at 2026-03-06 23:10 |

