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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)

「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_22405670.jpg
監督:フレッド・F・シアーズ
製作:サム・カッツマン
脚本:サム・ニューマン
   ポール・ギャンジェリン
撮影:ベンジャミン・H・クライン
音楽監修:ミーシャ・バカレイニコフ
出演:ジェフ・モロー
   マラ・コーディ
   モリス・アンクラム
   ルイス・D・メリル
   エドガー・バリアー
   ロバート・シェイン
   クラーク・ハワット
   モーガン・ジョーンズ
アメリカ映画/74分/モノクロ映画




「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02405819.jpg
しばしば「史上最低の特撮モンスター映画」とも呼ばれる作品である。何が最低なのかというと、映画の最大の売りである巨大怪鳥のデザインと造形だ。いやあ、これが本当に酷い(笑)。あまりにも酷すぎて、思わず生暖かい笑みがこぼれてしまうくらいである。特にカートゥーン・キャラみたいな珍妙なクリーチャー・デザインは、「一体全体どうしてこうなった?」と首を傾げざるを得まい。怖いというより間抜けである。いかにもパペットといった感じの造形や、素人に毛が生えたようなミニチュア操演も安っぽい。日本の特撮怪獣映画『空の大怪獣ラドン』('56)を参考にしたとも言われるが、いやあ、ラドンと比較することすらおこがましかろう。ひとまず、どうしてこうなったのかというと、原因はプロデューサーのサム・カッツマンにあったらしい。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02414240.jpg
モノグラム・ピクチャーズにヴィクトリー・ピクチャーズ、シュープリーム・ピクチャーズなどなど、いわゆる「ハリウッドの貧民窟」と呼ばれる有象無象の弱小映画会社を渡り歩き、西部劇から犯罪アクション、ロマンティック・コメディからミュージカル、さらにはホラーからSFからアドベンチャーから連続活劇まで、ありとあらゆるジャンルの低予算プログラム・ピクチャーを大量生産した、ハリウッド黄金時代の底辺層を代表するB級映画プロデューサーだったサム・カッツマン。'44年より大手コロムビア・ピクチャーズと下請け契約を結んだ彼は、いわばコロムビアのB級制作班として数々の低予算映画を手掛けるわけだが、この『人類危機一髪!巨大怪鳥の爪』もそのひとつだった。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02420066.jpg
なるべく製作費をかけず、安く短期間で大量にB級映画を世に送り出すことをモットーとしていたカッツマン。レイ・ハリーハウゼンの『水爆と深海の怪物』('55)と『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』('56)の製作に関わっていた彼は、実はもともと本作の特撮もハリーハウゼンに任せるつもりだったらしいのだが、しかしハリーハウゼン作品をプロデュースしたのは特撮の重要性を理解しているチャールズ・H・シュニーアである。一方、製作総指揮や製作監修として携わっていただけのカッツマンは、恐らくそこまで特撮に予算を割くつもりなどなかったのだろう。ハリーハウゼンのストップモーション・アニメは金がかかり過ぎると判断した彼は、格安で仕事を引き受けるメキシコの無名特撮工房に本作のクリーチャー・エフェクトを発注してしまったのである。なんと、かかった費用はたったの50ドル!確かに驚くほど安上がりではあったが、しかし出来上がったモンスター自体も一目瞭然で激安だった。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02423398.jpg
物語の始まりはアラスカのレーダー基地。最新レーダーの性能を試すためのテスト飛行を行っていた民間人技師ミッチ・マカフィー(ジェフ・モロー)は、フライト中に巨大な未確認飛行物体を発見する。しかし、レーダーには何も映っていない。テスト飛行に協力する数学者サリー・コールドウェル(マラ・コーディ)ら基地スタッフは疑問を呈するも、しかし「確かにこの目で見た」というミッチは米軍本部に通報。すぐさま戦闘機部隊が調査に乗り出すも何も見つからず、そのうえ戦闘機一機がパイロットごと行方不明になってしまった。米軍のバーゲン大尉(クラーク・ハワット)は「悪ふざけにもほどがある!」と激怒。本当に未確認飛行物体を目撃したというミッチの訴えは受け入れられず、怒り心頭のバーゲン大尉はミッチを解雇する。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02424487.jpg
恋人でもあるサリーと空軍専用機でニューヨークへ戻ることになったミッチ。ところが、その途中で専用機が例の未確認飛行物体に襲われ、カナダはケベック州の山中に墜落してしまう。ミッチとサリーは一命を取り留めたもののパイロットのピート(フランク・グリフィン)は死亡。ピートは墜落の直前に未確認飛行物体を「巨大な鳥」だと本部に連絡していた。現地のフランス系カナダ人農夫ピエール(ルイス・D・メリル)に救出されたミッチとサリー。未確認飛行物体はピエールの農場にも襲来し、それを目撃したピエールはフランス系カナダ人に古くから伝わる妖怪「ラ・カルカーニュ」(狼の頭と人間の女性の体と黒い翼を持つ巨大な空飛ぶモンスター)だと震えあがるのだった。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02425891.jpg
その頃、民間の旅客機や米軍の戦闘機が次々と姿を消し、いずれも消息を絶つ前に未確認飛行物体の目撃を報告していた。事態を重く見た米軍はミッチとサリーに協力を要請。2人は米軍幹部コンシダイン中将(モリス・アンクラム)とヴァン・バズカーク将軍(ロバート・シェイン)のもとへ呼び出される。やがて、未確認飛行物体の正体が巨大な鳥であることが判明。世界各地で目撃報告が相次ぐようになる。すぐさま米軍は怪鳥を倒すべく戦闘機部隊を送り込むが、しかし機関銃も爆弾も全く効果がない。いったい何故なのか?どうすれば怪鳥を退治することが出来るのか。
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科学研究所のノイマン博士(エドガー・バリアー)の調査チームによると、怪鳥は銀河系の彼方から飛来した地球外生命体で、その全身は反物質バリアーによって守られているという。それゆえレーダーに引っかからず、なおかつ人類の武器も太刀打ちできないのだ。そうこうしているうちに怪鳥は大都会ニューヨークへ出現。エンパイア・ステート・ビルや国連本部ビルを破壊する。一刻も早く怪鳥を打倒せねばならない。そこでミッチは、反物質バリアーを無効化する秘策を思いつくのだが…?
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02433841.jpg
演出を手掛けたのはハリーハウゼンの『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』のドラマ・パートを担当したフレッド・F・シアーズ。ニュースフィルム風のナレーションを多用した、ドキュメンタリータッチのシリアスな語り口は空想科学に信憑性を持たせるという点において有効で、そういう意味では極めて手堅い演出を披露してくれているのだが、それをすっかり台無しにしてしまったのが稚拙な特撮シーンだと言えよう。間抜けな面をした怪鳥がスクリーンに登場した途端、全てがギャグになってしまうのである。ただ、劇場公開から半世紀以上を経た今になって見ると、これはこれで妙に味があるというか、「酷すぎて逆に面白い」と感じてしまうことも否定は出来まい。
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ちなみに、最大の見せ場であるクライマックスの怪鳥ニューヨーク襲撃シーンだが、ミニチュア・セットをよくよく見ると、怪鳥に破壊されるエンパイア・ステート・ビルや国連本部ビル以外は写真を切り抜いただけの平面ボードばかり(笑)。予算が激安だったとはいえ、手抜きにもほどがありますな。また、崩れ落ちる建物の下敷きになったり街中を逃げまどったりする人々を捉えた群衆パニック・シーンは、どれも『地球の静止する日』('51)や『原子怪獣現る』('53)など別の映画のフィルムを流用している。米軍の地上部隊や戦闘機が怪鳥を攻撃するシーンも、第二次世界大戦や朝鮮戦争の記録映像を使用。フィルムの質感が全く違うので一目瞭然である。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02434946.jpg
主演は『宇宙水爆線』('55)や『クロノス』('57)のジェフ・モロー、『世紀の怪物/タランチュラの襲撃』('55)や『黒い蠍』('57)のマラ・コーディと、当時SFホラーのジャンルで活躍していたB級スターの顔合わせ。コンシダイン中将役のモリス・アンクラムも、『合衆国の恐怖・火星からの伝言』('52)や『惑星アドベンチャー』('53)、そして『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』などのSF映画で軍人役として欠かせないバイプレイヤーだった。というか、この頃のハリウッド映画は今よりもタイプキャストが横行しており、特定のジャンルや役柄のイメージが付いてしまうと、そこからなかなか抜け出せなかったのである。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02441112.jpg
そういえば、主演のジェフ・モロー曰く出演者は映画が完成するまで問題の特撮シーンを見たことがなく、初めてモンスターの姿を目の当たりにした時は愕然としたらしい。モロー自身はプレミア上映会ではなく地元の映画館で見たらしいのだが、怪鳥が登場するたびに劇場のあちこちから笑い声が聞こえてくるため、あまりにも恥ずかしくて誰にも気づかれぬよう映画館を抜け出したという。
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なお、日本では劇場未公開、テレビ放送なし。'24年5月に発売された日本盤DVDが初お披露目なのだが、しかし実はこれ、出所不明の劣悪な本編マスターを使用した海賊盤である。そもそも、本作の著作権およびオリジナル・ネガフィルムを保有しているのはコロムビアの親会社ソニー・ピクチャーズなのだが、日本盤にはライセンサーのクレジットが一切ない。要するに違法コピーというヤツだ。なおかつ、日本盤DVDに収録されているのはカラライゼーション版だが、しかし本作は公式にカラー版が作られたことは一度もない。その不安定なカラー映像から推察するに、恐らくどこかの誰かが勝手に安手の動画加工ソフトを使用してカラー化したのだろう。こういう海賊盤メーカーが存在するおかげで、日本では画質の良いオフィシャル盤を発売できなくなった古い洋画タイトルも少なくない。実に有難迷惑な話である。
「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」 The Giant Claw (1957)_f0367483_02440083.jpg
評価(5点満点):★★☆☆☆

参考DVD情報(アメリカ盤)※DVD-BOX「Icons of Horror Collection: Sam Katzman」収録
モノクロ/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital/言語:英語/字幕:英語/地域コード:1/時間:74分/発売元:Sony Piuctures Home Entertainment
特典:オリジナル劇場予告編/サム・カッツマン製作の連続活劇「Mysterious Island」の第2話「Sinister Savages」('51年制作・約16分)

アマゾン商品リンク
旧・米盤DVDボックス
米盤ブルーレイボックス

by nakachan1045 | 2024-10-03 02:58 | 映画 | Comments(3)
Commented by na at 2024-10-04 12:14
プロデューサーのサム・カッツマンはたとえ多少金銭的に無理してでもこの映画の特撮シーンの撮影をレイ・ハリーハウゼンに任せるべきだったと思います。
もし特撮シーンがハリーハウゼンのストップモーションだったら少なくとも映画本編の特撮シーンよりは出来が良いものになったでしょうし(少なくとも記事に書いてある主演のモローが映画の巨大怪鳥を見て愕然してあまりにも恥ずかしくて誰にも気づかれぬよう映画館を抜け出したというエピソードは存在しなかった)。
それにハリーハウゼンが制作に関わっているというだけでこの映画の後世での人気と知名度は史実とは比べ物にならないほど高くなったと思います。それだけハリーハウゼンの影響力は大きいですし。
記事内で触れられている「海賊盤メーカーが存在するおかげで、日本では画質の良いオフィシャル盤を発売できなくなった古い洋画タイトルも少なくない」という海賊版の問題もある程度の人気と知名度がある作品ならたとえ先に海賊盤が発売されていようと日本でも画質の良いオフィシャル盤は発売されるでしょうし、もしハリーハウゼンが特撮シーンを担当していたら日本でも画質の良い「人類危機一髪!巨大怪鳥の爪」のオフィシャル盤が発売されていたと思います。
ひでゆきさんはどう思いますか?
Commented by nakachan1045 at 2024-10-07 10:07
naさん

確かに、ハリーハウゼンが特撮を担当していたらクオリティは段違いだったと思いますし、後世の評価も変わっていたことは間違いないと思います。
Commented by at 2025-03-30 23:56
「日本では・・・’24年5月に発売された日本盤DVDが初お披露目」とありますが、これは全くの誤りです。実際は2011年2月に元のモノクロ版が発売されており、私もそれを所持しております。(ランコーポレーションなので非正規品なのは同様ですが)
Amazonで簡単に確認できるので、コメントは確認してから行った方がよいですよ。

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