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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「The Comeback」 (1978)

「The Comeback」 (1978)_f0367483_14252718.jpg
監督:ピート・ウォーカー
製作:ピート・ウォーカー
脚本:マレー・スミス
脚本加筆:マイケル・スローン
撮影:ピーター・ジェソップ
特殊メイク:ジョージ・パートルトン
音楽:スタンリー・マイヤーズ
出演:ジャック・ジョーンズ
   パメラ・スティーブンソン
   リチャード・ジョンソン
   デヴィッド・ドイル
   ビル・オーウェン
   シーラ・キース
   ホリー・パランス
   ピーター・ターナー
   ジューン・チャドウィック
   ペニー・アーヴィング
イギリス映画/101分」/カラー作品




欧米でカルトな人気を誇るUKホラーの鬼才ピート・ウォーカー監督。もともとは、成人向けのセックス・コメディや犯罪バイオレンスをインディペンデントで撮っていたウォーカー監督だが、莫大な遺産を巡る家族間の争いと陰謀を描いたサスペンス・スリラー『Die Screaming, Marianne』('71・日本未公開)や、寂れた田舎の古い劇場でリハーサルに臨む若い劇団員たちが殺されていくスラッシャー・ホラー『The Flesh and Blood Show』('72)が相次いで興行的に成功したことから、一種独特の暗くて陰惨で救いのないホラー映画(監督本人曰く、ホラー映画ではなくテラー映画とのこと)を次々と発表していく。中でも『拷問の魔人館』('74)や『フライトメア 恐怖!人喰い女達の晩餐』('74)をはじめとする、脚本家デヴィッド・マクギリヴレイと組んだ一連の猟奇残酷映画群は彼の代表作となった。

しかし、そのマクギリヴレイは『Schizo』('76)を最後にウォーカー監督と袂を別ち、同じくUKホラーの新世代と呼ばれたノーマン・J・ウォーレン監督とコラボレーションすることに。そこで、ウォーカー監督が後継パートナーとして声をかけたのが、旧知の脚本家マレー・スミスだった。そう、初期のセックス・コメディでたびたびタッグを組み、ホラー路線を開拓するきっかけになった『Die Screaming, Marianne』も手掛けた人物である。そんな、かつての盟友とウォーカー監督が久々に取り組んだ作品が、ヒッチコックの『サイコ』('60)を彷彿とさせるサイコロジカル・ホラー『The Comeback』('78)だ。

イギリスで絶大な人気を誇るアメリカ出身の大物ポップ・シンガー、ニック・クーパー(ジャック・ジョーンズ)が6年ぶりにカムバックすることとなる。かつてティーン・アイドル歌手として大ブレイクしたニックは、本国アメリカよりもイギリスで成功したことからロンドンへ拠点を移したのだが、6年前に電撃結婚した妻ゲイル(ホリー・パランス)は「30歳にもなって元アイドル歌手のイメージを引きずっていてはいけない」と考え、ニックを本格派シンガーへ転向させるべく夫婦揃ってアメリカへと帰国。ところが、ゲイルのキャリア戦術が上手くいかなかったため、それっきり音楽活動が途絶えてしまったのである。しかし、そのゲイルとも紆余曲折あって離婚。かつてのプロデューサー、ウェブスター・ジョーンズ(デヴィッド・ボイル)から声がかかり、ロンドンで久しぶりのアルバムをレコーディングすることになったのだ。

ニューヨークからヒースローへ到着したニックは、ウェブスターの秘書リンダ(パメラ・スティーブンソン)の案内でレコード会社のオフィスへ。6年ぶりに再会したウェブスターは、ゆっくりと時間をかけて最高のアルバムを作り上げるべく、ニックのためにロンドン近郊の豪華な大邸宅を借りていた。その頃、離婚した元妻ゲイルは金目の物を持ち去るべく、かつて夫婦が暮らしたロンドン市内のアパートを訪ねたところ、物陰に隠れていた殺人鬼に襲われる。殺人鬼は老婆のマスクを被って、服装も老婆の格好をしていた。不意を突かれたゲイルは殺人鬼の振り下ろした鎌で左手を切り落とされ、そのうえ頭部をカチ割られて息絶える。

元妻が殺されたことなど露知らぬニックは、愛車のスポーツカーを飛ばして大邸宅へとやって来る。出迎えたのは管理人の老夫婦、アルバート(ビル・オーウェン)とドリス(シーラ・キース)の2人。至れり尽くせりのおもてなしに満足し、美しいリンダとの間に新しい恋も芽生え始めたニックは、そのおかげもあって順調にレコーディングを進めていくのだが、しかしその一方で不可解な現象に悩まされる。血みどろになった元妻ゲイルの姿が夢に現れたことをきっかけに、屋敷のどこかからか女性のすすり泣きや悲鳴が聞こえてくるようになり、さらにはゲイルのものと思しき腐乱死体まで目撃してしまったのだ。そのうえ、アパートを調べに行ったマネージャーのハリー(ピーター・ターナー)も行方不明になってしまう。

泥沼離婚のストレスが原因の被害妄想だ、君は物事を悪い方に考え過ぎる、などとウェブスターに忠告されるも、にわかに納得の出来ないニック。この屋敷には何か秘密がある。そう考えた彼は部屋のひとつひとつを調べていたところ、屋根裏部屋に置かれた箱の中から腐敗して蛆の湧いたゲイルの生首を発見。そのままパニックに陥って気を失ったニックは、病院の精神科でマコーリー医師(リチャード・ジョンソン)の治療を受けることとなる。やがて完治したことから退院したニックは、改めてリンダとの愛を深めていく。ところが、今度はそのリンダが忽然と行方をくらましてしまった。訳も分からず困惑するニック。そんな彼の前に、いよいよあの殺人鬼が姿を現す…!

老婆に化けた殺人鬼が鉈や包丁を振り回して襲ってくる…という設定は、間違いなくヒッチコックの『サイコ』が元ネタでしょうな。恐怖シーンで使用される鳥の叫び声みたいなSEも、バーナード・ハーマンが書いた『サイコ』の音楽スコアを参考にしているはずだ。その一方で、最後に明かされる真犯人の正体やその動機は、いかにもピート・ウォーカー作品らしい。ネタバレになるので詳細は省くが、ウォーカー印ホラーの多くに共通する「中高年の保守的な大人がリベラルな現代の若者を罰する」というプロットのバリエーションである。

ただし、映画全体の雰囲気は過去のウォーカー作品と一線を画すと言えよう。珍しいハッピーエンドのクライマックス(それでも不穏な空気を若干残しているが)を含めて、ウォーカー作品にありがちな暗い陰惨さや安い場末感がすっかり影を潜め、まるでハリウッドのメインストリーム映画のような様相を呈しているのである。実際、ウォーカー監督はあえてハリウッド映画的な作風を意識したという。なにしろ、当初は全編をアメリカでロケ撮影して、ヒロインのリンダ役にも当時若手のキム・ベイシンガーを起用する案があったくらいだ。その最大の理由は主演のアメリカ人歌手ジャック・ジョーンズである。

'60年代にバート・バカラック&ハル・デイヴィッド作のシングル「素晴らしき恋人たち」や「恋のホットレース」をヒットさせ、あのフランク・シナトラにも絶賛された伸びやかで男性らしい歌声とロマンティックでスウィートなイージーリスニング・サウンドで、主に大人の女性から熱狂的に支持されたポップ歌手ジャック・ジョーンズ。'70年代に入ると本国アメリカでの人気は下降線を辿ってしまうのだが、しかし一方のイギリスでは出すアルバムが次々と全英チャートでトップ10入りするほどの人気ぶりだった。おのずと活動の拠点をロンドンへと移したジョーンズは、自身の名前を冠したBBCのバラエティ番組「The Jack Jones Show」('73~'78)の司会を務めたほか、ロンドン・パラディアムで毎年開催される英国王室主催コンサートにも出演するなど大活躍したのである。

もともとウォーカー監督自身は、主人公ニック役に友人でもあるブライアン・フェリーを起用するつもりだったという。そう、あのロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーである。なるほど、確かにハンサムでダンディで映画スター的な雰囲気があるもんね。過去にも何度か自作への出演をフェリーにオファーしていたというウォーカー監督だが、しかしそのたびにスケジュールの都合などで断られていたらしい。なので今度こそは…と考えたウォーカー監督だったが、しかしある晩テレビのトーク番組を見ていたところ、ゲスト出演したジャック・ジョーンズに一目惚れしてしまったという。思い描いていた主人公ニックそのものだったからだ。すぐさま自身のエージェントを介してジョーンズに連絡を取ったところ、その2日後にはオッケーの返事が戻って来たのだとか。結局、ブライアン・フェリーには打診することすらなかったそうだ。

早速、演じるジョーンズの素顔に合わせて主人公ニックのキャラ設定(イギリスで人気のあるアメリカ人歌手など)を変更したウォーカー監督。さらに、作品の方向性もジョーンズのコアなファン層(アッパーミドルクラスの中高年女性)を意識して、ハリウッド映画風のリッチでゴージャスな雰囲気を目指したのである。とはいえ、鉈で手を切り落としたり、蛆の湧いた腐乱死体をアップで見せたりなどのえげつないゴア描写は、完全にピート・ウォーカー映画ファン向けではあるのだけれど。また、劇中では主人公ニックが「F●●K」と叫ぶシーンがあるのだが、ファンクラブ会員限定の特別上映会では客席の上品なオバサマ方が一斉にドン引きしていたらしい(笑)。

結果として、エクスプロイテーション映画らしいエロ&グロを盛り込みつつ、しかし全体的にはハリウッド映画風のエレガンスと洗練を身に纏うという、例えるならばマイケル・ウィナーの『センチネル』('77)みたいな雰囲気に仕上がった本作。まあ、実際はカメラワークも編集もどこかドン臭いところがあって、本物のハリウッド映画には及ぶべくもないのだけれどね。それでもインディペンデントのイギリス映画としては十分に立派なクオリティ。『拷問の魔人館』などの陰惨さと残酷さを愛するコアなウォーカー映画ファンには賛否両論あるだろうが、しかし後にアメリカのキャノン・フィルムズからオールスター・キャストのゴシック・ホラー映画『魔人館』('83)を任されたのは、恐らく本作の実績があったからなのではないかとも思う。

ヒロインのリンダ役を演じるのは、当初候補だったキム・ベイシンガーに似ているという理由で選ばれたパメラ・スティーブンソン。当時はオーストラリア(出身はニュージーランド)からイギリスへ移住したばかりで、まだ無名に近い駆け出しの女優だったスティーブンソンだが、本作の翌年からレギュラー出演したイギリス版『サタデー・ナイト・ライブ』と呼ぶべきコメディ番組『Not the Nine O'Clock News』('79~'82)で一躍大ブレイクし、アメリカの本家『サタデー・ナイト・ライブ』にもレギュラー出演、『メル・ブルックス/珍説世界史PART1』('81)や『スーパーマンⅢ/電子の要塞』('83)などのハリウッド映画でも活躍したブロンドのお色気コメディエンヌである。

また、本作は当時テレビ『地上最強の美女たち!チャーリーズ・エンジェル』('76~'81)のボスレー役で大人気だったハリウッド俳優デヴィッド・ドイルが出演しているのも要注目である。これもまた、ハリウッド映画っぽさを演出するためのキャスティングで、ちょうど『チャリエン』のシーズン2とシーズン3の合間を縫って出演してもらったのだそうだ。ロンドン・ロケではどこへ行っても「ボスレーだ!」と野次馬が集まって大変だったという。さらに、『オーメン』('76)の冒頭で首つり自殺する若い家庭教師役で知られるホリー・パランス(名優ジャック・パランスの愛娘)が、ニックの別れた元妻ゲイル役として登場。結果的に女優として大成できなかった人だが、しかし育ちの良さを感じさせる上品な美しさとスマートな立ち振る舞いに、生まれながらに持ち合わせたスターの素質を感じさせる女性だ。

そして、ピート・ウォーカー作品に欠かせない希代の怪女優シーラ・キースが、ここでは一見したところ朗らかで愛想の良い管理人夫婦の妻ドリス役を演じている。もちろん、愛想が良いのはあくまでも上辺だけで、だんだんと怪物的な本性を現していくことになるのだけれど。そのほか、後にテレビのSFホラー『V』('84~'85)のエイリアン役などで有名になるカルト女優ジューン・チャドウィック(本作が映画デビュー)や、『拷問の魔人館』でヒロインのアン=マリーを演じたヌードモデルのペニー・アーヴィングがチラリと顔を出しているのも見逃せない。

残念ながら日本では劇場未公開・テレビ未放送・ソフト未発売の本作だが、イギリスやアメリカではVHSの時代から幾度となくビデオソフトが出ており、現在はブルーレイでも発売中。筆者はKino Lorber社から出たアメリカ盤ブルーレイを所有しているのだが、フィルムを重ね焼きした頭とケツのクレジット・シーンや、ソフトフォーカスを強めに効かせた一部シーンこそ若干ぼんやりして見えるものの、しかしそれ以外は全体的にシャープでクリアな高画質。ジャック・ジョーンズとウォーカー監督のインタビューで構成されたメイキング・ドキュメンタリーや、ウォーカー監督による音声解説などの特典も充実している。

評価(5点満点):★★★☆☆


参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.78:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:なし/地域コード:A/時間:101分/発売元:Kino Lorber
特典:メイキング・ドキュメンタリー「Slasher Serenade」('12年制作・約13分)/ピート・ウォーカー監督による音声解説/オリジナル劇場予告編

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by nakachan1045 | 2024-10-15 13:37 | 映画 | Comments(0)

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