なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「人皮燈籠」 (1982)

製作:モナ・フォン
製作総指揮:ランメ・ショウ
脚本:ニー・クァン
スン・チュン
撮影:ツァオ・アンスン
美術:チェン・チンシェン
音楽:ス・チェンホウ
スティーブン・シン(シン・チンユン)
出演:トニー・リュウ
チェン・カンタイ
ロー・リエ
ティエン・ニー
リンダ・チュー
リン・シュウチュン
シュウ・ヤム=ヤム(スーザン・ショウ)
アイ・フェイ
スン・チェン
ロー・メン
ワン・チンホー
香港映画/99分/カラー作品
生きたまま美女たちの皮を剥いで、世にも美しい燈籠を作る連続殺人鬼の恐怖を描いた、香港産の武侠ゴシック・ホラー映画である。製作は香港で最大手の映画会社だったショウ・ブラザーズ(以下ショウブラ)。ジミー・ウォングにティ・ロン、デヴィッド・チャンといったスーパースターを次々と育て、チャン・チェやキン・フー、ラウ・カーリョンといった巨匠・名匠たちによる傑作を次々と世に送り出し、'60~'70年代の香港映画黄金時代を築き上げたショウブラだが、しかし'70年代末辺りからライバル会社、ゴールデン・ハーヴェストが飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長。ジャッキー・チェンやマイケル・ホイ、サモ・ハン・キンポーなどが在籍し、ハリウッドへの進出も果たしたゴールデン・ハーヴェストにすっかりお株を奪われたショウブラは、見る見るうちに往時の勢いを失って業績も低迷していく。
折しも、世界では『13日の金曜日』('80)シリーズを筆頭とするスラッシャー映画のブームが席巻。当時は香港でも『悪魔の臓殖/ザ・デビル』('81)や『養鬼(悪魔の胎児』('82)、『魔 デビルズ・オーメン』('83)など、エログロ満載のB級ホラー映画が人気を博していた。そうした状況下で生まれたのが、伝統的な武侠アクションと血みどろスラッシャーを融合させた本作。トレンドに便乗した企画であったことは想像に難くないだろう。とはいえ、これがなかなかインパクトの強い怪作。しかも、単なるゲテモノ映画と思いきや、意外にもちゃんと作られている。残念ながら日本では劇場未公開・テレビ未放送・ビデオソフト未発売だが、海外ではカルト映画として高い人気を誇る作品だ。
舞台は中世の大陸中国。とある町に2人の男性が住んでいる。ロン・シュアイ(トニー・リュウ)とタン・フー(チェン・カンタイ)である。どちらも由緒正しい名門一族出身の裕福な貴人で、なおかついずれ劣らぬ武術の達人。そのうえ、2人とも気位が高くて自惚れと競争心が強いため、いつも何かにつけて「我こそが一番」と躍起になり、売り言葉に買い言葉で相手を侮辱することから、常に喧嘩の絶えない因縁のライバル同士だった。ロンの聡明で貞淑な妻リー・チン(ティエン・ニー)は無益な争いを好まず、お互いに些細な事柄でも敵対心を剥き出しにする2人の諍いが、いずれ取り返しのつかない事態へと発展するのではないかと心配している。
そんなある日、タンの自宅庭園で華やかな晩餐会が行われ、ロンとチン夫人の夫婦も招かれる。数か月後に開催される燈籠祭を前にして、前回のコンテストで優勝したタンは自慢の燈籠を披露。これにカチンときたロンはすかさずケチをつけ、次のコンテストで優勝するのは自分だと高らかに宣言する。すると今度はタンが新しい愛人を招待客たちにお披露目するのだが、現れたのはなんとロンの妾だった高級娼婦イェン・チュー(リンダ・チュー)。公衆の面前で恥をかかされたロンは大いに憤慨し、すぐさま燈籠職人たちがひしめく露店街へと向かう。名人と呼ばれるツイ老人(ワン・チンホー)に「タンにだけは絶対負けたくない!必ず優勝できるような燈籠を作ってくれ!」と頼み込むロン。すると、ツイ老人は気まずそうな顔をして「実際に燈籠を作っている人間は別にいる」と打ち明ける。つまり、これまで他人が作った燈籠を自分のものとして売っていたのだ。
ツイ老人の紹介で謎の燈籠職人のもとを訪れたロン。人里離れたあばら屋に工房を構えるその人物をひと目見てロンは驚愕する。それはかつて剣術のライバルだった男チャオ・チュンファン(ロー・リエ)だったからだ。7年前にチン夫人を巡って争った2人だったが、命を懸けた決闘の果てにロンが勝利。生き恥を晒すことになったチャオは世捨て人となり、名も無き燈籠職人としてひっそり暮らしていたのである。過去のことは水に流して、是非とも私のために傑作を作ってくれと依頼するロン。渋々ながらも承諾したチャオは、その代わりに「燈籠が完成するまで工房へは足を踏み入れない」という条件を付ける。これでタンに勝てる!すっかり浮足立ったロンはチャオを連れて街の高級娼館へ。すると、そこへタンの邸宅からイェン・チューが戻り、ロンは嫉妬のあまり不機嫌となってしまう。
その晩、深夜の娼館に怪しげな人影が。それは、顔が骸骨で体は猿という不気味な妖怪だ。闇夜に音もたてず宙を舞って娼館へ忍び込んだ妖怪は、寝室で寛いでいるイェン・チューを誘拐する。連れ去られた先はあばら屋の地下室。そう、犯人は妖怪に化けたチャオだった。実は、7年前の出来事をいまだ根に持っているチャオは、復讐のためにロンの大切な人々を殺害し、そのうえで破滅させてやろうと画策していたのである。恐怖に震えあがるイェン・チューを全裸にし、生きたまま全身の皮を剥いで殺したチャオは、その皮をなめして燈籠の材料にするのだった。
さらに、チャオはタンの妹チンファ(リン・シュウチュン)を同じように拉致し、やはり生きたまま全身の皮を剥いで殺害。部下たちに命じて妹の行方を探させたタンだが、しかし手掛かりすら見つからなかったため、宿敵ロンの仕業ではないかと考えて捕吏のパン捕頭(スン・チェン)に捜査を依頼する。しかし相手は名門中の名門ゆえ、捕吏といえども迂闊に手が出せない。そこで、しびれを切らせたタンは殺し屋クエイ・ズーイ(ロー・メン)を送り込んでロンを暗殺しようとするのだが、その隙を狙ったチャオにチン夫人が連れ去られる。妻を誘拐した黒幕はタンに違いない!と考え、やはりパン捕頭に捜査を訴えるロン。もはやお互いに後へは引けなくなった2人。これもまたチャオの計略のひとつで、戦闘能力の拮抗するロンとタンに殺し合いをさせることで共倒れを狙ったのだ…!
ということで、惨劇の元凶は男たちの愚かなマウント合戦。その背景には、社会の様々な場面でことさらメンツを重んじる東アジア的なマッチョ思想があると言えよう。お互いに家柄も実力も同レベルのトップであり、それゆえ常に「我こそが一番」を証明しようと対立するロンとタオ。メンツを潰されたらやり返す。全ては自分と一族の名誉を守るため。要するに世間体というやつだ。それは殺人鬼チャオも同様。チン夫人を巡る争いでロンに負けてメンツを潰されたチャオは、言うなれば「世間に顔向けが出来なくなった」ため世捨て人となり、積年の恨みを募らせて復讐の鬼となってしまう。そんな自尊心の塊みたいな男たちによる、無益で下らない争いの犠牲となるのは女性ばかり。彼らがメンツなどにこだわらなければ、彼女たちが殺されることもなかったわけで、そうした日本の武家社会にも通じる強烈な名誉意識と家父長制への痛烈な批判が物語の根底に流れている。脚本を書いたのは『片腕必殺剣』('67)や『大女侠』('68)、『少林寺』三十六房』('78)などでお馴染みのニー・クァン。さすがは武侠映画の大家と呼ばれた名脚本家、B級ホラーと侮れない骨太な仕上がりだ。
クオリティの高さはストーリーのみならずビジュアルも同様。中でも、往年のマリオ・バーヴァやダリオ・アルジェントを彷彿とさせるような、赤や青や緑などの原色カラー照明を多用した、ゴシックムードたっぷりの幻想的な映像美は特筆すべきであろう。劇中でチャオが扮する妖怪の造形を含め、武侠アクションとゴシック・ホラーを融合した奇妙な世界観は、かつてショウブラがイギリスのハマー・フィルムと合作した『ドラゴンvs7人の吸血鬼』('73)をも彷彿とさせる。監督はティ・ロン主演の武侠映画『冷血十三鷹』('79)で知られるスン・チュン。移動撮影とモンタージュを巧みに駆使したスタイリッシュな演出が見どころで、アクション・シーンのリズミカルで畳みかけるような見せ方も上手い。そこもまた、本作を単なるB級ホラーで片づけられないポイントだろうと思う。ちなみに、当時の香港産ホラーに比べてゴア・シーンはそれほど過激ではなく、見るからにダミー人形の生首もご愛敬なのだが、しかし猟奇的なムードで見る者の背筋を凍らせる演出の腕前はなかなかのものだ。
主演はブルース・リーの出世作『ドラゴン危機一髪』('71)で悪党マイのドラ息子を演じたトニー・リュウ。ブルースとは幼馴染の盟友だったそうで、『燃えよドラゴン』('73)までの全作に出演している。冷たい印象の端正な二枚目で悪役の多かった人だが、本作でもそのイメージを活かした独善的なヒーローを演じて適役だ。その両脇を固めるのが、チェン・カンタイにロー・リエという'70年代にショウブラの看板スターだった名優たち。ちなみに、トニー・リュウはもともとゴールデン・ハーヴェストの出身だ。
先述した通り日本では見る術のない本作だが、しかし海外では幾度となくソフト化されており、現在はイギリスに本社を置くビデオソフトメーカー、88 Filmsから米国盤と英国盤のブルーレイが出ている。本編の映像ソースはオリジナルネガだそうだが、恐らくHDマスター自体はDVD時代に制作されたものなのだろう、昨今のHDレストア版なんかと比べると画質は甘めな印象だ。一方、特典映像には主演のトニー・リュウやお色気担当の女優リンダ・チュー、'70年代に一世を風靡したグラマー女優スーザン・ショウのインタビューを収録。いずれもちょっと古めのアーカイヴ映像だが、しかし今回が初蔵出しということで貴重だ。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:北京語/字幕:英語/地域コード:A・B/時間:99分/発売元:88 Films/Celestial Pictures
特典:専門家ケネス・ブローソンとフィル・ギリオンの音声解説/女優スーザン・ショウのインタビュー('05年制作・約14分)/女優リンダ・チューのインタビュー(製作年不明・約15分)/俳優トニー・リュウのインタビュー(製作年不明・約51分)/オリジナル劇場予告編
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by nakachan1045
| 2024-10-29 19:07
| 映画
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