なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「夕なぎ」 César et Rosalie (1972)

製作:ミシェール・ド・ブロカ
脚本:ジャン=ルー・ダバディ
クロード・ソーテ
脚本協力:クロード・ネロン
撮影:ジャン・ボフェティ
音楽:フィリップ・サルド
出演:イヴ・モンタン
ロミー・シュナイダー
サミ・フレイ
ウンベルト・オルシーニ
ベルナール・ル・コック
エヴァ=マリア・ミーネケ
アンリ=ジャック・ユエ
イザベル・ユペール
ジゼラ・ハーン
ベティ・ベッケル
エルヴェ・サンド
ジャック・デリー
ナレーション:ミシェル・ピッコリ
フランス・イタリア・西ドイツ合作/111分/カラー作品
恋愛映画の名匠クロード・ソーテが、最大のミューズだったロミー・シュナイダーと組んだ3本目の映画である。なおかつ、ダブル主演は『友情』('74)と『ギャルソン!』('83)でもソーテ監督と組むことになる大御所イヴ・モンタン。そこに『恋のマノン』('70)の超美形俳優サミ・フレイが加わり、いかにもフランス映画らしい自由奔放であっけらかんとして、ちょっとばかりほろ苦くも微笑ましい大人の男女の三角関係が描かれていく。
これが3度目となる母親ルーシー(エヴァ=マリア・ミーネケ)の結婚式の準備に忙しい長女ロザリー(ロミー・シュナイダー)。実は彼女自身も離婚したばかりのバツイチで、今は幼い娘を連れて実家へ戻って暮らしており、ちょっと前から年上の実業家セザール(イヴ・モンタン)と家族公認で付き合っている。普段は実家とセザール宅を行ったり来たりする生活。英語の堪能なロザリーは通訳としてセザールのスクラップ会社も手伝っているが、しかし彼と再婚するかしないかはまだ決めていない。前夫アントワーヌ(ウンベルト・オルシーニ)との関係も普通に良好。そもそもアントワーヌとは親しい友達だったが、しかしお互いに恋愛感情はなかった。当時のロザリーが本気で愛していたのはダヴィド(サミ・フレイ)。しかし自由気ままで物静かで口下手な芸術家のダヴィドは何も告げずにアメリカへ行ってしまい、寂しさを募らせたロザリーは勢いでアントワーヌと結婚してしまったのだ。
そんなダヴィドが5年ぶりにアメリカから戻って来る。コミック・アーティストとして成功した彼はパリ市内にアトリエを構え、ロザリーの消息を辿ったところ彼女が結婚していたことを知ってショックを受ける。本当に愛し合っているのなら、何も言わずに待ち続けてくれるものと思っていたからだ。共通の友人だったアントワーヌからロザリーの近況を聞き、ルーシーの結婚式会場を訪れるダヴィド。母親や妹たちは彼が帰国したことを知っていたが、しかし何も聞かされていなかったロザリーはビックリする。今も変わらぬ愛をロザリーに伝えたダヴィドは、いきなり「僕と一緒に暮らそう」と言い出すのだが、しかし当然ながらロザリーは大いに困惑する。そんな都合のいい話はない。ロザリーの家族の一員として結婚式に参列していたセザールも、突然現れた見知らぬ男がロザリーの元恋人と知って内心穏やかではなかった。明るくて陽気でお喋りでユーモアセンスのあるセザールは、どこへ行っても話題の中心となる愛されキャラの人気者だが、しかしその一方で気が短いうえに負けん気が強いため、恋敵の登場にメラメラとライバル心の炎を燃やす。
今の私にとって最愛の男性はセザール。そうハッキリと告げたロザリーだったが、しかしセザールによる束縛もまた息が詰まるため、気が向くとダヴィドのアトリエを訪ねて旧交を温める。そんなロザリーの態度にますます嫉妬心を強めたセザールは、怒りのあまりダヴィドに殴りかかった挙句、彼のアトリエを滅茶苦茶に破壊してしまい、ロザリーは俺の女だ!彼女は俺の子供を妊娠している!近く結婚するつもりだから二度と近づくな!と捨て台詞を残して去っていく。もちろん、妊娠も結婚も全くの嘘である。これを知って激怒したのがロザリー。私は誰の所有物でもない!どこで何をして誰と会おうと私の自由でしょ?勝手に俺の女だなんて決めつけないで!そう啖呵を切った彼女は荷物をまとめてセザールの部屋を出ていき、ダヴィドと一緒に幼い娘を連れて地中海に面したリゾート地セットへ行ってしまう。
それから暫くして、ダヴィドの助手ミシェル(ベルナール・ル・コック)から行き先を聞いたセザールがセットへやって来る。ロザリーが少女時代にバカンスを過ごした、思い入れ深い海岸の別荘をセザールが買ったという。思わず懐かしさに目を輝かせたロザリーは、母親ルーシーや次女カルラ(ジゼラ・ハーン)、三女マリテ(イザベル・ユペール)など家族を誘って別荘でバカンスを過ごすことにするのだが、しかし立場がなくなったダヴィドは黙ってパリへ戻ってしまう。数日後、ダヴィドのアトリエをセザールが訪れる。ダヴィドがいなくなったことでロザリーが塞ぎ込んでいるというのだ。セザールの説得で一緒に別荘へ行くことにしたダヴィド。ところが、愛する男性2人に挟まれたロザリーは、どちらを選ぶこともできない心苦しさから、娘を連れて行方をくらましてしまった。取り残されたセザールとダヴィド。しかし、この頃になると2人の間には奇妙な友情が芽生え始めていた…。
フランソワ・トリュフォーの『突然炎のごとく』('62)を彷彿とさせる自由奔放な男女の三角関係を、まるでクロード・ルルーシュのごとき流麗な技巧で描いた詩情豊かなラブ・ストーリー。もともとギャング映画を撮っていたソーテ監督は、出世作となった恋愛映画『すぎ去りし日の…』('70)で大胆な路線変更をするわけだが、そういえばあの作品も基本的には古い常識に囚われない男女の三角関係を描いていた。男性に依存することなく対等に振る舞う自立した女性ゆえ、それぞれに違った魅力を持つ甲乙つけがたい2人の男性を平等に愛するロザリー。むしろ束縛の強い男性たちの方が女性に依存しており、どちらがロザリーを自分のモノにするかで子供のような喧嘩を繰り広げるのだが、そんな彼らの間にいつしか「同志」のような固い友情と絆が生まれる…という展開が本作の核心であろう。
愛は独り占めするものではなく分け合うもの。クライマックスで不安げな表情を浮かべながら帰って来たロザリーは、食事を囲んで仲良さげに談笑する男たちの姿を見て嬉しそうに微笑み、窓の外に彼女の姿を見つけたセザールとダヴィドは思わず呆気にとられたような顔をする。その表情が何を意味するのか。そもそも3人の関係性はこれからどのように変化していくのか。全てを観客の想像に委ねる形で映画は終わるわけだが、少なくともお互いを対等の存在として認め合ったセザールとダヴィドがロザリーを巡って争うことはもうないように思う。
ちなみに、短気で嫉妬深くて感情直下型で、しかし明るくて気さくで憎めない愛すべき男セザールは、クロード・ソーテ監督自身の兄ピエールがモデルだという。陽気でお喋りで家族の中心的存在だったピエールをソーテ監督は敬愛し、いつか自分の映画で兄のような男を描きたいと思っていたそうだ。ただし、ストーリーのヒントとなったのは、ソーテ監督がまだ助監督時代に映画の撮影準備で知り合ったスクラップ業者の男性とそのガールフレンド。スクラップ業者らしからぬ洒落た身なりのハンサムな男性と美しく上品な女性のカップルを前にして、もし自分が彼女と恋に落ちたらどうなるだろう…と勝手に三角関係を夢想してしまったらしい。ということは、ダヴィドのモデルはソーテ監督自身ということか…?
映画の企画自体は'62年頃から温めていたらしいが、しかし実際に実現したのはその10年後。当初、ソーテ監督はセザール役にリノ・ヴァンチュラやヴィットリオ・ガスマンを想定していたが、しかし脚本を読んだイヴ・モンタンが自ら売り込んできたという。また、脚本を書いたジャン=ルー・ダバディはロザリー役をカトリーヌ・ドヌーヴにオファーしたが、しかしドヌーヴはあまり乗り気ではなかったらしく返答がなかったため、既にソーテ監督とは『すぎ去りし日の…』と『マックスとリリー』('71)で組んでいたロミー・シュナイダーに白羽の矢が立った。さらに、ダヴィド役は当時20代半ばのジェラール・ドパルデューが第一候補だったものの、しかし若すぎてモンタンやシュナイダーとの年齢的なバランスが取れないと判断されたため、シュナイダーと同世代のサミ・フレイが選ばれた。ドパルデューはソーテ監督×モンタンの次回作『友情』('74)に出演することとなる。
脇役で要注目なのは当時まだ19歳だったイザベル・ユペール。ちょっと生意気だがしっかり者のロザリーの妹マリテを演じて強い印象を残す。ロザリーのすぐ下の妹カルラ役には、ユーロスパイ映画やマカロニ・ウエスタンで活躍していたドイツ人女優ジゼラ・ハーン。ダヴィドの助手ミシェル役のベルナール・ル・コックは、『さらば夏の日』('70)でルノー・ヴェルレーの弟を演じていた爽やか好青年だ。また、ルキノ・ヴィスコンティが贔屓にしたイタリアの名優ウンベルト・オルシーニが、ロザリーの前夫アントワーヌを演じているのも見逃せない。
既に日本でもデジタル修復版がブルーレイ化されている本作。筆者は『すぎ去りし日の…』と2枚組のアメリカ盤BDを所有しているのだが、恐らく本編は日本盤と同じHDマスターを使用しているものと思われる。アメリカ盤の目玉はフランス盤DVDにも収録されていたメイキング・ドキュメンタリー。プロデューサーのミシェール・ド・ブロカや脚本家のジャン=ルー・ダバディ、俳優のベルナール・ル・コックなど関係者が撮影の舞台裏を振り返る。スクリプターのジュヌヴィエーヴ・コルティエはソーテ監督の幼馴染みだったそうで、子供時代のソーテ監督は兄ピエールと正反対の大人しくて口数の少ない地味な少年だったそうだ。
評価(5点満点):★★★★☆
参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:フランス語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:111分/発売元:Film Movement LLC/Studiocanal
特典:メイキング・ドキュメンタリー「Serenade a 3」('12年制作・約30分)
アマゾン商品リンク
アメリカ盤ブルーレイ(『すぎ去りし日の…』と2枚組)
日本盤ブルーレイ
by nakachan1045
| 2025-02-07 00:07
| 映画
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