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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき

「Más allá del terror(恐怖の向こう側)」 (1980)

「Más allá del terror(恐怖の向こう側)」 (1980)_f0367483_18192720.jpg
監督:トマス・アスナル
製作:フアン・ピケール・シモン(ノークレジット)
製作総指揮:アルフレード・カサダ
原案:トマス・アスナル
脚本:トマス・アスナル
   ミゲル・リソンド
   アルフレード・カサダ
   フアン・ピケール・シモン(ノークレジット)
撮影:フリオ・ブラガード
出演:フランシスコ・サンチェス・グラヘラ
   ラクエル・ラミレス
   エミリオ・シエグリスト
   アレクサ・ロレト
   アントニオ・ハバレラ
   アンドリー・ヴァン・デ・ヴォエスタイン
   デヴィッド・フォレスト
   アドルフォ・ガレゴ
   アナ・ベリオス
   マルティン・コルダス
   イシドロ・ルエンゴ
スペイン映画/83分/カラー作品




1975年11月20日に初代総統フランシス・フランコが亡くなり、40年近くに渡って続く長期独裁政権に終止符の打たれたスペイン。反自由主義を掲げて社会のあらゆる分野に介入したフランコ政権は、映画においても検閲制度を導入して表現の自由を奪っていたのはご存知の通りであろう。反政府・反権力的な表現が徹底して排除されたのは勿論のこと、フランコ政権の当時は過激な性描写や暴力描写もご法度。一応、輸出向けバージョンに限ってはヌードシーンも許されたし、舞台設定が外国であれば暴力を伴う犯罪行為を描くことも可能だったが、しかし国内上映用バージョンとなるとヌードは厳禁だし、スペインは治安が良いという建前を守らねばならなかった。だが、独裁政権の終焉で検閲が廃止されると状況は一変。まるで長年の抑圧に対する反動のように、刺激的なセックスやバイオレンスを売りにした低予算のエクスプロイテーション映画が量産されるようになる。「スペイン初のバイカー・ゾンビ映画」などと呼ばれる『Más allá del terror(恐怖の向こう側)』もそのひとつだ。

中年のスケベおじさんを人気のない郊外へと誘い出し、青姦するふりをしてポケットから財布を盗み出そうとし、バレるとナイフでおじさんを刺し殺して現金を奪う不良少女ローラ(ラクエル・ラミレス)。手に入れた金で弟ニコ(エミリオ・シエグリスト)と一緒に安物のマリファナを買った彼女は、恋人チェマ(フランシスコ・サンチェス・グラヘラ)やその子分ジャス(マルティン・コルダス)と合流する。彼らはいわば半グレの暴走族。全身ブラックレザーのクールなチェマをリーダーとし、盗みに殺しにレイプに誘拐にと何でもありで暴れまわる危険なゴロツキ集団だ。

まだまだ遊ぶ金が足りない!そこで彼らは深夜に客でごった返す街角のバーへ押し入り、拳銃とナイフで脅して客や従業員から金目の物を強奪しようとする。ところが、目撃者の通報によってパトロール警官のコンビが駆けつけて銃撃戦となってしまった。辛うじて警官コンビを射殺したチェマたちだったが、しかしジャスが撃たれて重傷を負う。足手まといだからとニコはジャスを殺害。さらに、若者たちは人質として身なりの良い男女カップル、ホルヘ(アントニオ・ハバレラ)とリンダ(アレクサ・ロレト)を誘拐し、それ以外の客と従業員を口封じのため皆殺しにして逃走する。ホルヘはエリートのサラリーマンで、リンダは彼が勤める大手企業の社長夫人。要は不倫カップルだ。高級な毛皮コートを身に纏った上流階級の美女リンダにチェマは鼻の下を伸ばし、力づくでも自分のものにしようとアプローチ。当然ながら、ローラとしては面白くない。

ホルヘの車で郊外へと逃げた一行は、人里離れた場所に一軒の大きな屋敷を発見する。窓ガラスを破って乱入するチェマたち。屋敷には上品な老婦人(アンドリー・ヴァン・デ・ヴォエスタイン)と幼い孫息子アンドラス(デヴィッド・フォレスト)が住んでいた。老婦人に暴行を加えて金品を奪った一行は、証拠隠滅のため屋敷に火をつけて再び逃走。暴走族の若者たちばかりか、ホルヘやリンダも命乞いをする老婦人と少年を無視していく。自分たちの身を守るだけで精いっぱいだからだ。燃えさかる炎に包まれて焼死する老婦人とアンドラス少年。ところが、実は彼らの正体は悪魔崇拝者だった。今わの際に地獄の王サタンに復讐を誓った老婦人は、自分と孫を焼き殺した連中に恐ろしい呪いをかける。車の故障で立ち往生したチェマたち。周囲には廃墟となった古い教会しかない。仕方なく教会で夜を越すことにした一行だが、しかしそんな彼らの身に次々と不可解な超常現象が降りかかり、やがて地獄から甦った亡者たちが襲いかかって来る…!

というわけで、バイクギャング×オカルト×ゾンビという一粒で3度おいしいウルトラ低予算のC級ゲテモノ映画。ちょうど当時のスペインでは、ストリートギャングの不良少年少女たちの赤裸々な生態を描いた「チネ・キンキ(非行映画)」と呼ばれるジャンルが流行しており、半グレ集団の若者を主人公にした本作もその影響を多分に受けているものと思われる。それゆえなのか、実のところオカルト要素とゾンビ要素はオマケみたいなもの。映画の大半は無軌道な不良少年少女たちの乱暴狼藉ぶりに費やされていく。強盗や殺人なんぞ朝飯前。老人や子供だって平然と殺してしまう。もはや半グレなんて生やさしいもんじゃないガチの凶悪犯罪者集団である。日本でも当時は『狂い咲きサンダーロード』('80)や『ガキ帝国』('81)みたいな暴走族映画・不良映画が流行ったもんだが、ちょっとワルのレベルが違いますな(笑)。

一方の性描写はわりと控えめなのだが、それでも女性のヘアヌード付きの濃厚な濡れ場あり。ただ本作で興味深いのは、どちらかというと女性より男性を性的対象化して描いている点であろう。リーダーのチェマが色白の細マッチョな肉体を惜しげもなく披露するシャワーシーンでは、ちょっと小ぶりなペニスもポロリ。また、童顔美少年のニコは教会の廃墟で冒涜的な言葉を叫びながら激しくオナニーして射精し、さらには姉ローラにフェラチオをして貰って恍惚の表情を浮かべる。どちらも画面に映るのは主にクロースアップの表情だが、カメラは演じる若手俳優エミリオ・シエグリストの端正な顔立ちをじっくりと嘗め回すように捉える。監督のトマス・アスナルについてはあまり分かっておらず、残された長編劇映画は本作を含めてたったの5本だけ、しかも本作以外はコメディ映画ばかりという人なのだが、なんとなくクイアな匂いのする映像作家だなという印象は受ける。

なお、クライマックスに登場するミイラのゾンビ軍団が『エルゾンビ』('72)シリーズっぽいことから、一部ではアマンド・デ・オッソリオ作品からの影響も指摘されている。どうもゾンビの正体は尼僧っぽく見える(?)ので、さしずめ「エルゾンビ」ならぬ「アマゾンビ」(←これが言いたかっただけw)ってとこですかな(笑)。あとあれだ、クローネンバーグの『スキャナーズ』('81)に先駆けた頭部爆発シーンも要注目。さすがにディック・スミスの仕事に比べると、足下に及ばないレベルのチャチな特殊効果だが、とりあえず先見性だけは買っておきたい。さらにホラー映画マニアにとって見逃せないポイントがもうひとつ。『ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー』('83)や『スラッグス』('87)のフアン・ピケール・シモン監督が、ノークレジットながらも脚本とプロデュースに携わっていることである。いやあ、どういう繋がりがあったんでしょうかねえ。

日本では劇場未公開・テレビ未放送・ビデオソフト未発売の本作。というか、そもそもスペイン以外で公開された形跡がなく、ビデオソフトも'80年代に当時の西ドイツでVHSが出ただけ。長いこと、そのドイツ盤VHSを違法コピーして英語字幕を付けた海賊盤ビデオが闇マーケットで出回っていた。しかし、'21年にアメリカの新興レーベルCauldron Filmsが世界初の公式ブルーレイを発売。オリジナルのカメラネガから4K解像度でレストアされた本編映像は、文字通りツルッツルピッカピカの超高画質である。

評価(5点満点):★★☆☆☆


参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.66:1)/1080p/音声:2.0ch リニアPCM/言語:スペイン語//字幕:英語/地域コード:ALL/時間:83分/発売元:Cauldron Films
特典:映画史家キャット・エリンジャーの音声解説/スチル・ギャラリー



by nakachan1045 | 2025-02-24 06:50 | 映画 | Comments(0)

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