なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「ミステリー・ストリート」 Mystery Street (1950)

製作:フランク・E・テイラー
原案:レナード・スピゲルガス
脚本:シドニー・ボーム
リチャード・ブルックス
撮影:ジョン・オルトン
音楽:ルドルフ・G・コップ
出演:リカルド・モンタルバン
サリー・フォレスト
ブルース・ベネット
エルサ・ランチェスター
マーシャル・トンプソン
ジャン・スターリング
エドモン・ライアン
ベッツィ・ブレア
ウォリー・メイハー
アメリカ映画/93分/モノクロ作品


舞台はマサチューセッツ州の大都会ボストン。女性専用の下宿屋に暮らすナイトクラブの踊り子ヴィヴィアン(ジャン・スターリング)は、必死の形相で恋人と連絡を取ろうとしていた。彼の子供を妊娠してしまったのだ。しかも相手は妻子ある年上の男性。いわゆる不倫だった。子供を産み育てるつもりの彼女は、相手男性に出産費用や養育費を負担して欲しいと考えたのだが、しかし無責任にも彼は逃げ回っていたのである。最終手段で恋人の自宅へ電話をかけたヴィヴィアンは、夜の10時半に勤務先のナイトクラブで落ち合う約束をする。その会話に聞き耳を立てていたのは下宿屋の女将スマーリング夫人(エルサ・ランチェスター)。詮索好きで口やかましい彼女は、普段から下宿人たちのプライベートにも目を光らせていたのだ。

ナイトクラブで恋人を待っていたヴィヴィアンだが、しかし約束の時間を過ぎても相手は現れない。もちろん、自宅へ電話をかけても誰も出なかった。そこで彼女は、バーカウンターで酔っ払っていた若い男性客が車で来ていることを知り、飲酒運転は危険だから私が代わりに運転してあげると声をかけて彼の車に乗り込む。ヴィヴィアンが男性客を連れ帰るのはいつものことなのでバーテンダーも気にしなかった。男性客の名前はヘンリー(マーシャル・トンプソン)。ちょうどその日、彼の妻グレイス(サリー・フォレスト)が不幸にも流産してしまい、ショックを受けたヘンリーは妻を病院に残してひとりでやけ酒を飲んでいたのだ。愛車は黄色のフォード。ヴィヴィアンが運転代行を申し出たのは、もちろん恋人のもとへ向かうためである。行き先はボストン近郊のコッド岬にある小さな港町。しかし途中で酔いの醒めたヘンリーが騒ぎ始めたことから、ヴィヴィアンは彼を無理やり降ろして車を奪ってしまう。公衆電話から恋人の自宅へ連絡し、人気のない場所で会うことにしたヴィヴィアン。ところが、現れた恋人は手にした拳銃で彼女を殺害し、遺体を砂丘に埋めたうえで車を近くの沼に沈めてしまう。

それからおよそ3ヶ月後。ヘンリーは車の保険金を受け取っていた。流産した妻が入院中にナイトクラブへ出かけて酔っ払ったうえ、見知らぬ商売女に車を奪われたなどとは口が裂けても言えないため、病院の駐車場から車が盗まれたと保険会社に報告していたのだ。ちょうどその頃、コッド岬の砂丘で白骨化した人間の遺体が発見される。性別は不明。着衣も装飾品も見当たらないため身元も全く不明だった。捜査を担当するのは地元警察のモラレス警部(リカルド・モンタルバン)と相棒のシャーキー刑事(ウォリー・メイハー)。警察の検視では手に負えないと考えたモラレス警部は、ハーバード大学医学大学院の法医学者マカドゥ博士(ブルース・ベネット)に白骨遺体の調査を依頼する。その結果、白骨遺体は髪をブロンドにブリーチした24歳くらいの女性だと判明。近隣一帯から集められた失踪者リストをくまなく調べあげ、写真をもとにして入念に骨格を照合していった結果、遺体はボストン市内に住む独身女性ヴィヴィアン・ヘルドンのものと結論付けられる。

ヴィヴィアンの失踪届を出したのは、同じ下宿屋に暮らす地味なウェイトレスのジャッキー(ベッツィ・ブレア)。事情聴取に訪れたモラレス警部からヴィヴィアンの死を知らされた下宿屋の女将スマーリング夫人は、彼女がメモに残した電話番号から不倫相手の男性を突き止める。ヴィヴィアンの妊娠を知った不倫相手が、厄介払いで彼女を殺したと直感で察知したスマーリング夫人は、相手男性を脅迫して多額の口止め料をせしめようと考えたのだ。もちろん警察には内緒である。相手男性は裕福な船舶デザイナーのハークリー氏(エドモン・ライアン)。ハークリー氏の事務所へ押しかけたスマーリング夫人だったが、しかし相手は知らぬ存ぜぬを決め込んで譲らないため、夫人は彼が席を立った隙を狙って凶器と思しき拳銃を盗み出す。

一方、マカドゥ博士からヴィヴィアンが妊娠3ヶ月だったと報告を受けたモラレス警部は、彼女がそれを理由に殺されたのではないかと考える。警察が注目したのは、失踪した夜にヴィヴィアンと一緒にナイトクラブを出て行った黄色いフォードの若い男性。念のため、その日付で車の盗難届を調べたところヘンリーの存在が浮上する。モラレス警部からの事情聴取に嘘をついて白を切り続けるヘンリー。ところが、その直後に沼の底から黄色いフォードが発見され、ナンバープレートからヘンリーのものであると判明し、彼はあえなく警察に逮捕されてしまう。夫の無実を信じて警察に激しく抗議する妻グレイス、彼女の健気な様子に思わず確信が揺らぐモラレス警部。その頃、凶器の拳銃が盗まれたと知ったハークリー氏が行動を起こす…。

さながらテレビ『CSI:科学捜査班』('00~'15)の御先祖様みたいな作品。当時まだ一般的な認知度の低かった科学捜査にいち早く焦点を当て、性別も身元も不明の白骨遺体から事件の真相へと迫っていく犯罪捜査の面白さで一気に見せ切る。アメリカで最初の法医学部がハーバード大学に設立されたのは1931年のこと。立役者となったのは「法医学の母」とも呼ばれる女性の法医学者フランシス・グレナー・リーだが、本作のストーリーは'40年に彼女が事件捜査に参加した「アイリーン・ペリー殺人事件」をベースにしているという。それだけに科学捜査の描写は極めて克明でリアル。そのうえ、ストーリー展開も人物関係もなかなか複雑に入り組んでいるため、とにかく情報量が圧倒的に多い作品なのだが、それを上手く交通整理しながら分かりやすくまとめ、スピーディかつ緊張感のあるクライム・サスペンスに仕立てた脚本と演出は見事である。

なので、厳密に言えばフィルムノワールというよりも『刑事コロンボ』×『CSI:科学捜査班』的な犯罪捜査ドラマに近いのだが、しかし撮影監督ジョン・オルトンによる陰影を強調したスタイリッシュなカメラワークがノワール的ムードを大いに高めてくれる。ミュージカル映画『巴里のアメリカ人』('51)でアカデミー賞に輝く名カメラマンのオルトンだが、しかし最も得意だったジャンルはフィルムノワールであろう。中でも、アンソニー・マン監督と組んだ『Tメン』('47)や『脱獄の掟』('48)における、ドイツ表現主義の影響を色濃く受けたダークな映像美は格別で、本作でもその卓越した映像センスを遺憾なく発揮。アスペクト比「4:3」のスタンダードサイズ画面を余すことなく使った、奥行きのあるダイナミックな画面構図もオルトンの十八番だ。

ちなみに、ボストンで全編ロケされた最初のハリウッド映画とも呼ばれる本作。実際、一部の屋内シーン以外は全てボストンやその近郊で撮影されており、ケンブリッジのハーバード大学キャンバスおよびボストンのハーバード大学医学大学院でもロケが行われている。なにしろ、舞台がニューヨークだろうがロンドンだろうがパリだろうが、あらゆる場所をロサンゼルスの撮影スタジオにオープンセットとして再現してしまった黄金時代のハリウッド映画。映画が純然たる現実逃避だった時代にはそれでも通用したのだが、しかし第二次世界大戦後になると映画にもリアリズムが求められるようになり、おのずと舞台となる場所へ実際に出向いて撮影を行う作品が増えていく。その代表格がジュールズ・ダッシン監督の傑作ノワール映画『裸の町』('48)だったわけだが、本作もその影響を多分に受けていると考えて間違いないだろう。

主演はラテン系二枚目俳優としてMGMが売り出し中だったメキシコのトップスター、リカルド・モンタルバンと、同じくMGMが低予算映画の清純派ヒロインとして売り出そうとしていた女優サリー・フォレスト。映画の看板を背負うにしてはちょっと地味なキャスティングで、本作が興行的に不発だった最大の原因とも言われている。その代わりと言ってはなんだが、脇を固める役者陣はなかなか豪華な顔ぶれだ。冒頭15分間のストーリーを引っ張っていくBガール(バーガール=水商売女性の俗称)のヴィヴィアンには、『紅の翼』('54)でアカデミー助演女優賞候補になるブロンドのグラマー女優ジャン・スターリング。同じプラチナブロンド美女でも、マリリン・モンローやジェーン・マンスフィールドとは一味違った、退廃的でアンニュイな雰囲気がファムファタール的な役柄にピッタリだ。

さらに、終盤のカギを握る太々しくて厚かましい下宿屋の女将スマーリング夫人を、『フランケンシュタインの花嫁』('35)や『情婦』('57)などでお馴染みの名女優エルサ・ランチェスターが演じている。お上品ぶっているけど下劣な本性は隠せず、どこまでも愚かで欲の皮が張ったオバサンのゲスっぷりがなんとも強烈だ。どちらも主演女優のサリー・フォレストよりも遥かに目立っており、特にジャン・スターリングは実質的なヒロインと言えるだろう。そのほか、元オリンピック代表陸上選手のターザン俳優ブルース・ベネットに'40年代の美少年俳優マーシャル・トンプソンが登場。『マーティ』('55)でアカデミー助演女優賞候補になるベッティ・ブレアが顔を出しているのも見逃せない。

日本では劇場未公開、テレビ未放送。10年以上前に発売された非公式DVDが本邦初上陸となる。アメリカではMGMカタログタイトルのネガフィルムと著作権を保有するワーナー・ホームビデオより、'07年に発売された5枚組DVD-BOX「Film Noir Classic Collection Vol.4」の一環として公式DVDが発売済み。フィルムノワール専門家による音声解説のほか、短いながらもメイキング・ドキュメンタリーも収録されている。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(アメリカ盤)※5枚組DVD-BOX「Film Noir Classic Collection Vol.4」収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:英語・フランス語/地域コード:1/時間:93分
特典:映画史家アラン・シルヴァーとエリザベス・ワードによる音声解説/メイキング・ドキュメンタリー「Myster Street: Murder at Harvard」('07年制作・約5分)/オリジナル劇場予告編
by nakachan1045
| 2025-02-26 17:47
| 映画
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