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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「ファントマ」 Fantômas I: À l'ombre de la guillotine (1913)

「ファントマ」 Fantômas I: À l\'ombre de la guillotine (1913)_f0367483_19472455.jpg
監督:ルイ・フイヤード
原作:ピエール・スーヴェストル
   マルセル・アラン
脚本:ルイ・フイヤード
撮影:ジョルジュ・ゲラン
美術:ロベール=ジュール・ガルニエ
出演:ルネ・ナヴァール
   エドモン・ブレオン
   ジョルジュ・メルシオール
   アンドレ・ヴォルベール
   アンリ・マイラール
   ルネー・カール
   ジャーヌ・ファーベ
   ナウディエ
フランス映画/58分/モノクロ・サイレント作品




今では殆ど忘れられてしまっている事実だが、かつて世界最大の映画大国はアメリカ(=ハリウッド)ではなくフランスだった。なにしろ、フランスは映画発祥の地である。映画を発明した偉人としてエジソンの名前を挙げる向きも少なくないと思うが、しかしエジソンが発明したキネトスコープは我々の知る映画とは似て非なるもの。連続撮影されたフィルムを映写機でスクリーンに投影するという、フランスのリュミエール兄弟が生み出したシネマトグラフこそが現在の映画の直接的なルーツと言えよう。世界で最初のメジャー映画スタジオ(パテとゴーモン)が誕生したのもフランス。アメリカではビジネス目的で「映画の父」を自称するエジソンが市場独占を画策したが、しかしその影響力も遠く離れたヨーロッパまで及ぶことはなく、欧州諸国と同様に第一次世界大戦の影響で映画業界が経済的ダメージを受け、その隙を狙って安価なハリウッド映画がヨーロッパ市場へ大量流入するようになるまで、フランスは世界最大の映画生産国にして輸出国だった。

時はまさに映画産業の黎明期。『月世界旅行』('02)をはじめとするジョルジュ・メリエスのトリック映画や、世界で最初の喜劇王と呼ばれてチャップリンにも影響を与えたマックス・ランデーのコメディ映画が国内外で大変な評判となったのだが、それらに負けず劣らずの人気を博したのが連続活劇映画である。ハリウッドでも1920年代~30年代にかけて全盛期を迎える連続活劇映画。一般的には12~15話程度で構成されたアクション映画のことで、映画館ではだいたい1週間ほどで次の新しいエピソードに切り替わる。1話につき上映時間はだいたい20~30分くらい、各エピソードのクライマックスはクリフハンガー形式で終わるように作られており、さて、主人公の運命やいかに!というドキドキハラハラで観客の気を持たせて次週も劇場に足を運んでもらう。もちろんストーリーは全話を通じて連続している。だから連続活劇。その形式自体は映画の最初期から存在したらしいのだが、しかしジャンルとして確立したのは'10年代のフランスにおいてである。

立役者となったのはジャーナリスト出身の映画監督ルイ・フイヤード。もともと彼は、家計の足しにするためゴーモン社で映画脚本家のアルバイトをしていたのだが、同社の制作責任者であるアリス・ギイに才能を認められ、1906年に映画監督へ転向することに。コメディ映画からトリック映画まで様々なジャンルを手掛け、およそ19年間のキャリアで800本以上もの映画を撮ったと言われているが、中でも一番の得意ジャンルは連続活劇だった。その原点となったのが『ファントマ』('13~'14)。これがヨーロッパ各国はもとよりアメリカでも大ヒットし、勢いに乗ったフイヤードは『レ・ヴァンピール -吸血ギャング団-』('15~'16)や『Judex』('16)などの連続活劇映画を次々と発表したのである。ほかにも、大正時代の日本で空前の大ブームとなったヴィクトラン・ジャッセ監督の『ジゴマ』('11)シリーズや『プロテア』('13)も世界中でヒット。こうしたフランス産連続活劇映画の相次ぐ大成功が、ハリウッドの連続活劇映画にも少なからぬ影響を及ぼしたことは間違いなかろう。

そんな連続活劇映画の元祖のひとつ『ファントマ』の第1話に当たるのが本作。興味深いのは一般的な連続活劇映画と違って、この『ファントマ』は中編~長編の単独作品5本から成り立っており、当時のフランスではそれぞれ2カ月~4カ月と比較的長いタイムラグを空けて公開されていること。そういう意味では、連続活劇というよりも5部構成のシリーズ物映画に近いのだが、しかしストーリー自体はもちろん各エピソードで密接につながっているし、ここぞという場面でジ・エンドとなって次回作への期待を煽るクリフハンガー形式も(2作目以降で)採用されているので、なるほど確かに紛れもない連続活劇映画ではある。

時は1912年、舞台は花の都パリ。深夜になって宿泊先のロイヤル・パレス・ホテルへ戻ったソニア・ダンドフ王女(ジャーヌ・ファーベ)は、窓から侵入した正体不明の強盗に現金12万フランと宝石類を強奪されてしまう。すぐにホテルのフロントへ通報したダンドフ王女だったが、しかし強盗はすぐさまホテル従業員に変装してまんまと逃げ去ってしまう。通報を受けて駆け付けた警察のジューヴェ警部(エドモン・ブレオン)は、強盗が去り際に残していったという1枚のカードを確認したところ、何も書かれていない真っ白の紙に「ファントマ」という文字が浮かび上がる。そう、犯人は変幻自在かつ神出鬼没の怪盗ファントマ(ルネ・ナヴァール)だったのだ。

パリでは同じく裕福な貴族ベルタム卿が謎の失踪を遂げたばかり。マスコミではそちらもファントマの仕業では?と騒がれている。ベルタム事件を担当することになったジューヴェ警部は、友人である新聞記者ファンドール(ジョルジュ・メルシオール)の協力を得て捜査を始める。まずはベルタム卿夫人(ルネー・カール)の屋敷を訪れるジューヴェ警部。そこで彼は、悪党グルン(ルネ・ナヴァール2役)が屋敷へ出入りしている痕跡を発見する。ベルタム卿夫人はグルンに洗脳され心酔していたのだ。これは怪しい!と睨んだ警部は、すぐさまグルンの自宅アパートへと向かうことに。隣の部屋でベルタム卿夫人とジューヴェ警部の会話を盗み聞ぎきしていたグルンは、慌てて運送会社へ連絡して自宅の荷物を南アフリカのヨハネスブルクへ送るよう指示する。彼自身も現地へ高飛びするつもりだった。

しかし、運送会社のスタッフよりも先にジューヴェ警部がグルンの自宅アパートへ到着。山積みになった荷物のひとつを解いてみると、中からベルタム卿の遺体が発見される。ふと見ると、荷物の中には大量の白いカードもあった。その1枚を取り出したジューヴェ警部が試しにカードを舌で舐めてみると、やはり「ファントマ」の文字が浮かび上がる。グルンとファントマは同一人物だったのだ。恐らくベルタム卿夫人も共犯者なのであろう。警官を動員して屋敷を24時間監視することにしたジューヴェ警部は、真夜中に逃げ出そうとしたグルンことファントマを逮捕することに成功。裁判の結果、ファントマは絞首刑に処せられることとなる。

天下の怪盗ファントマの逮捕劇は世間の話題を独占し、これに目を付けた人気俳優ヴァルグラン(アンドレ・ヴォルベール)は「獄中のファントマ」を舞台の演目にして大変な評判となる。カツラや付けヒゲでファントマに扮したヴァルグランは本人と瓜二つ。そこで、舞台を見に行ったベルタム卿夫人は妙案を思いつく。刑務所の看守ニベット(ナウディエ)を大金で買収し、処刑の前日に15分間だけファントマと刑務所の外で会わせるよう指示。さらに、刑務所の近くのホテルに匿名で部屋を取ったベルタム卿夫人は、公演後の楽屋にメッセージを送ってヴァルグランをホテルへ招待する。ファントマに扮したままで来てくれとの条件付きで。全く警戒することなくやって来たヴァルグランに薬を盛って眠らせるベルタム夫人。するとそこで、刑務所から抜け出してきたファントマとヴァルグランが入れ替わり、何も知らぬ看守ニベットはヴァルグランをファントマだと勘違いして刑務所へ連れて帰る。いよいよ訪れた処刑当日。果たして、このままヴァルグランがファントマの代わりに処刑され、ファントマ本人は逃げおおせてしまうのか…?

当時のフランスで国民的な人気を誇った犯罪小説「ファントマ」シリーズの映画化。それゆえなのか、どうも映画版は観客が既に原作小説を読んでいることを大前提に作られているようで、例えばファントマの存在も劇中の世界では周知の事実となっており、そのため最低限のキャラクター説明や背景解説すらないまま話がドンドンと進んでいく。予備知識のない初心者にとっては誠に不親切な仕様と言えるだろう。物語の主軸となるベルタム事件にしたって、なぜファントマがベルタム卿を誘拐して殺したのか、事の成り行きが一切説明されていないため首を傾げる場面も多々あり。原作を知らない観客は説明不足を想像で補っていくしかない。そもそも、当時は映画というメディアが発明されてから18年ほどしか経っておらず、ストーリーテリングの技法もまだまだ発展途上であったろうことを考えると、こうした脚本や演出における「片手落ち」も仕方ないとは感じる。というか、この粗削りな未成熟さもまた黎明期の映画を鑑賞する上での大きな醍醐味のひとつと言えよう。

劇場公開と同時に爆発的な大ヒットを記録し、欧州各国や北米大陸でも大成功を収めたという本作。今となっては何ら特筆すべき点のない娯楽映画という印象だが、しかし映画史的には極めて重要な役割を果たした作品であることは間違いない。なにしろ、本作の成功がなければその後のフランスやアメリカにおける連続活劇映画のブームは生まれず、本シリーズの影響を受けた『ドクトル・マブゼ』('22)の大ヒットでフリッツ・ラング監督がドイツ映画界を代表する世界的な巨匠になることもなく、映画史の景色と変遷はだいぶ違うものになっていたかもしれないからだ。ちなみに、恐らく興行成績の結果によってシリーズ続行を決断するつもりだったのだろう、この1作目ではエンディングにクリフハンガー形式を採用せず。続編の可能性を大いに示唆しつつ、ストーリーとしては一応の決着が付けられている。

2013年に制作会社ゴーモンとフランス国立映画センターが共同出資し、シネマテーク・フランセーズの協力のもとでシリーズ全作の4Kレストア版を製作。それをもとにしたブルーレイソフトが、日本を含む世界各国で発売されている。筆者は日本盤よりも先に出たアメリカ盤を購入したのだが、素材フィルムにオリジナルネガ(一部の欠損部分はデュープネガで代用)を使ったというだけあって、それはそれはクリアでクリスプな高画質に仕上がっている。

評価(5点満点):★★★☆☆


参考ブルーレイ情報(アメリカ盤2枚組)※全5作収録
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/1080o/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio (劇伴のみ)/言語:フランス語(中間字幕)/字幕:英語/地域コード:A/時間:58分/発売元:Kino Lorber/Gaumont
特典:映画史家デヴィッド・カラットによる音声解説



by nakachan1045 | 2025-11-19 15:21 | 映画 | Comments(0)

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