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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「処女の生血」 Blood for Dracula (1974)

「処女の生血」 Blood for Dracula (1974)_f0367483_18324562.jpg
監督:ポール・モリセイ
製作:アンドリュー・ブラウンズバーグ
   アンディ・ウォーホル
   ジャン=ピエール・ラッサム(ノークレジット)
製作総指揮:カルロ・ポンティ
脚本:モール・モリセイ
撮影:ルイジ・クヴェイレル
美術デザイン:エンリコ・ヨブ
特殊メイク:カルロ・ランバルディ
第二班監督:アントニオ・マルゲリティ(ノークレジット)
音楽:クラウディオ・ジッツィ
出演:ジョー・ダレッサンドロ
   ウド・キアー
   ヴィットリオ・デ・シーカ
   アルノ・ユエルギング
   マキシム・マッケンドリー
   ミレーナ・ヴコティッチ
   ドミニク・ダレル
   ステファニア・カッシーニ
   シルヴィア・ディオニシオ
   インナ・アレクセイエフナ
   エレオノラ・ザーニ
   ロマン・ポランスキー(カメオ)
   ジェラール・ブラッシュ(カメオ)
   アンドリュー・ブラウンズバーグ(カメオ)
イタリア・フランス合作/103分/カラー作品




ポップ・アート界のカリスマにしてトレンドセッター、アンディ・ウォーホルのもとで、数々のアヴァンギャルドな自主制作映画を世に送り出した鬼才ポール・モリセイが、『戦争と平和』('56)や『ドクトル・ジバゴ』('65)、『カサンドラ・クロス』('76)などでお馴染みの、イタリアの誇る世界的な大物映画製作者カルロ・ポンティと組んで撮ったヴァンパイア映画である。そもそもの始まりは、ロマン・ポランスキーの『マクベス』('71)や『欲望の館』('72)、『テナント/恐怖を借りた男』('76)をプロデュースをした気鋭の英国人製作者アンドリュー・ブラウンズバーグとモリセイの出会い。初対面のブラウンズバーグから「君と一緒にイタリアで映画を作りたい」と誘われたモリセイは、彼の仲介でローマ在住のカルロ・ポンティに紹介されたのだという。

ブラウンズバーグと一緒にポンティのオフィスへ出向いたモリセイ。しかし、そこでポンティから「どんな映画を撮りたいのか?」と訊かれて慌てたという。なぜなら、その時点ではまだ何のアイディアもなかったからだ。すると、隣にいたブラウンズバーグが「ホラー映画です。しかも3Dの。題材はフランケンシュタイン。予算は300万ドル、撮影期間は3週間を予定しています」とペラペラと答えるので驚いたらしい。しかも、そんな短期間で安上がりに映画が撮れるのなら、ついでにもう一本作ってはどうかとポンティから提案があり、すかさずブラウンズバーグは「ならば、ドラキュラ映画なんかどうでしょう?」と返答したところ、その場で予算合計600万ドル、撮影期間6週間の条件でホラー映画を2本撮るという企画にゴーサインが出た。それまで撮影期間2~3日、予算ほぼゼロの自主製作映画ばかり撮って来たモリセイは、少なくとも彼にとっては「巨額」の予算をかけた「メジャー映画」の許可が、これほど呆気なく簡単に下りてしまうことに驚愕したそうだ。そして、その場で製作の決まったフランケンシュタイン物が『悪魔のはらわた』('73)、ドラキュラ物が『処女の生血』('74)として完成することになる。

ちなみに、以上の経緯はポール・モリセイ監督の回想によるもの。これがアンドリュー・ブラウンズバーグの記憶だとちょっとばかり違ってくる。カルロ・ポンティの出資で撮ったポランスキーの『欲望の館』で、予てより興味を持っていた3D撮影を試したいと考えたものの、しかし残念ながら叶わなかったというブラウンズバーグ。そもそも3Dというのはあくまでもギミックである。ホラー映画やSF映画で使われることが多いのは、ジャンル的にそれらの方がドラマ映画よりも3D効果を楽しめるからだ。しかし、当時の撮影技術だと3D映画を作るのは手間暇がかかった。中でもネックになるのは編集である。3D映画はなるべくカットを少なくした方が作りやすいと考えたブラウンズバーグ。そこで彼の脳裏に浮かんだのが、一連のウォーホル映画だったそうだ。

フェラチオされている若い男性の恍惚の表情を35分間ひたすら映し出すだけの『Blow Job』('64)や、8時間に渡って延々とエンパイア・ステイト・ビルの様子を撮っただけの『Empire』('65)など、ウォーホル一派のアングラ映画には編集なしでカメラを回しっぱなしにする作品が少なくない。3D映画を任せるには適任ではなかろうか。ウォーホル映画の監督といえばポール・モリセイ。そうだ、彼にお願いしてみよう!すぐさまモリセイにコンタクトを取ったブラウンズバーグは、3Dでフランケンシュタイン映画を撮らないか、ついでにドラキュラ映画も作ろうじゃないかと持ち掛け、オファーを受けたモリセイも食いついてきたという。どちらの話が真実なのか分からないが、いずれにせよ『悪魔のはらわた』も『処女の生血』も、ポール・モリセイではなくアンドリュー・ブラウンズバーグの立案だったことは間違いないだろう。

基本的に自作映画では脚本なし、リハーサルもなし、ぶっつけ本番のアドリブ撮影を信条とするモリセイ監督。今回もその方針を貫くつもりだったが、しかしこれまでの映画と違って予算は巨額だし、スタッフもキャストもプロフェッショナルばかりである。当たり前だが、アングラ映画のやり方は通用しない。そもそもホラー映画=娯楽映画。となると明確なプロットやストーリーは必要だ。そこで、モリセイ監督は毎朝一番にその日撮影するつもりのシーンやセリフを女性秘書に話して聞かせ、その場で取ったメモをすぐさま秘書がタイプライターでテキストに書き起こし、それを改めてモリセイ監督自身が添削して簡単な「脚本」としてランチまでに仕上げ、午後の撮影に向けて必要な人数分を複写してスタッフやキャストに配ったのだそうだ。要するに、脚本執筆と映画撮影を同時に進めたのである。最初に作られた『悪魔のはらわた』は、このやり方で予定通り3週間で無事に撮影終了。その1週間後から取り掛かった『処女の生血』でも、同様のプロセスが採用された。ただし、こちらは3Dではなく通常の2Dで撮影されたため、前作よりもスムースにスケジュールをこなすことが出来たという。

舞台は1920年代初頭のヨーロッパ。すっかり老いて弱弱しくなった吸血鬼ドラキュラ伯爵(ウド・キアー)は、忠実な執事アントン(アルノ・ユエルギング)の助言に従って、母国ルーマニアからイタリアへ向かうことになる。吸血鬼のエネルギー源は処女の生血。腹を満たすための日々の食事は野菜で事足りるのだが、しかし不老不死の肉体を保つためには処女の生血を摂取する必要があった。ところが、近頃ではすっかり処女が少なくなってしまい、なおかつルーマニア国内だとドラキュラ伯爵家は悪い意味で有名なため、自由に獲物を探すことすらままならない。ならば、ドラキュラの悪名が及ばない外国へ狩場を移すのが得策。カトリックの総本山バチカンを抱えるイタリアであれば、教会の教え通りに結婚まで貞操を守る若いカトリック女性が沢山いるに違いない。しかもイタリア女性は美人ばかりと評判だ。先祖代々の城を離れることに躊躇するドラキュラ伯爵だったが、しかしアントンから熱心な説得を受けて考えを大きく改め、もはや歩くことすらままならぬほど衰弱した妹(エレオノラ・ザーニ)に別れを告げ、遠い異国の地イタリアを目指すことにしたのである。

黒いリムジンに寝床の棺桶を乗せ、住み慣れたドラキュラ城を後にするドラキュラ伯爵とアントン。ようやくたどり着いたイタリアの長閑な田舎で、2人は寂れた宿屋に部屋を取る。もはや我慢の限界だ!今すぐにでも処女の生血が欲しい!とゴネるドラキュラ伯爵を叱責し、まずは目立たぬよう周辺の獲物情報を探り始める執事アントン。「最愛の妻に先立たれたルーマニアの由緒正しい裕福な貴族ドラキュラ伯爵が、イタリア人の花嫁を探している。条件は若くて美しい女性、なおかつ処女でなくてはならない」と尋ねて回ったところ、地元に住む田舎貴族ディ・フィオーレ侯爵(ヴィットリオ・デ・シーカ)に4人の美しい娘がいるとの情報を得る。すぐさまディ・フィオーレ侯爵の邸宅を訪れたアントンが縁談の話を持ち掛けたところ、応対したディ・フィオーレ侯爵夫人(マキシム・マッケンドリー)は大喜びで受け入れる。実は、大のギャンブル好きである侯爵。莫大な借金を抱えて家計は火の車だったのである。大勢いた使用人もいまでは庭師マリオ(ジョー・ダレッサンドロ)ひとりだけ。食料を自給自足するため娘たちは畑仕事までしている。なので、異国から来た裕福な貴族と娘の縁談は、侯爵夫妻にしてみれば願ったり叶ったりなのだ。

いずれ劣らぬ美人ばかり揃ったディ・フィオーレ家の4姉妹だが、しかし風変わりな長女エスメラルダ(ミレーナ・ヴコティッチ)は結婚適齢期を過ぎており、まだ14歳の四女ペルラ(シルヴィア・ディオニシオ)は結婚するに早すぎる。ドラキュラ伯爵のお見合い相手として相応しいのは、次女サフィリア(ドミニク・ダレル)と三女ルビニア(ステファニア・カッシーニ)だが、しかしルビニアは結婚になどまるで無関心。おのずとサフィリアに白羽の矢が立てられる。ディ・フィオーレ家の屋敷に迎え入れられ、サフィリアと2人きりになるチャンスを虎視眈々と狙うドラキュラ伯爵。しかし、ディ・フィオーレ姉妹には重大な隠し事があった。神に誓っても私は処女です!男性になど触れたことすらありません!と宣言していたサフィリアとルビニアだが、しかし実は2人とも性欲旺盛な非処女のアバズレ娘で、ハンサムでマッチョな庭師マリオを相手に昼も夜もセックスをしまくっていたのである。

まずはサフィリアを毒牙にかけたドラキュラ伯爵。ところが、すぐさま苦しみ始めてのたうち回り、たっぷりと飲んだサフィリアの血をドバドバと吐いてしまう。処女だなんて全くの嘘じゃないか!怒り心頭のドラキュラ伯爵は、それならばとルビニアに襲い掛かるも結果は同じ。非処女の生血を吸って当たったドラキュラ伯爵は、皮肉なことにますます衰弱してしまう。ある日、ディ・フィオーレ侯爵が野暮用で屋敷を留守にすることとなる。チャンス到来とばかりサフィリアとルビニアをテレパシーで操って、 間違いなく処女の末娘ペルラを狙うドラキュラ伯爵。すると、姉妹の様子が変なことに気付いたマリオはドラキュラ伯爵の正体をも素早く見抜き、斧を片手に吸血鬼退治に乗り出すのだった…!

シリアスなヴァンパイア物に見せかけておきながら、実のところ古典的ヴァンパイアのパロディに仕上がったスクリューボール・コメディ的ゴシック・ホラー。身持ちの堅い処女だとされる4人姉妹の生血を狙うドラキュラ伯爵側と、金持ちだと噂されるドラキュラ伯爵の財産を狙うディ・フィオーレ侯爵側、双方の利害が一致して進められる縁談話だが、しかしお互いが肝心の「本音」と「真実」を隠して相手を騙そうとしていたがため、どちらにとっても最悪の結果を招いてしまうことになる。いわば、堕落したブルジョワ階級同士が相手を食い物にしようとして失敗するというお話。最終的に漁夫の利を得て活躍するのが、打倒ブルジョワの階級革命を志す共産主義者の庭師マリオだったりするのも大いなる皮肉である。そこは反骨精神の旺盛な孤高の映像作家ポール・モリセイらしいアイロニーであろう。

さらに言えば、常日頃より「人生に意味などない」「人間は生まれて死ぬだけの存在」と考え、自分の映画を通して「この世は所詮便所である」ことを描こうとしたという、モリセイ監督独特の厭世観のようなものも感じられるだろう。こんな結果になってしまうのなら、ドラキュラ伯爵はわざわざ故郷を離れない方が良かったし、ディ・フィオーレ家の人々も欲を出して赤の他人を屋敷へ招き入れるべきじゃなかった。なんと無駄な努力!なんと愚かな選択!それこそ松尾芭蕉の「おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉」じゃないが、とぼけたユーモアの中に一抹の哀しさとほろ苦さを漂わせた作品だ。

先述した通り、モリセイ監督にとって初めての「メジャー映画」だった『悪魔のはらわた』と本作。どちらも主なスタッフの顔ぶれは同じで、撮影監督はエリオ・ペトリやマルコ・フェレーリなどの名匠たちに重宝されたルイジ・クヴェイレル、美術デザインはリナ・ウェルトミューラー作品で知られるエンリコ・ヨブ、終盤における血みどろスプラッターの特殊効果は『キング・コング』('76)や『E.T.』('82)のカルロ・ランバルディといった具合に、伝統あるイタリア映画界の誇る名職人たちが結集。ちなみに、血糊として使われたのはイタリアの老舗メーカー、ファブリの看板商品として知られるアマレーナ(サワーチェリー)のシロップ。これは血糊だけではなくソフトドリンクの材料としても使われ、撮影の合間の休憩時間にスタッフやキャストの喉を潤したという。ルキノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』('71)と『ルートヴィヒ』('72)で音楽監修や追加音楽の作曲に携わったクラウディオ・ジッツィによる、美しくもムーディでメランコリックな音楽スコアも印象的。マリオ・バーヴァやアントニオ・マルゲリティのイタリア産ゴシック・ホラー映画群にも通じる、ダークで幻想的なロマンティシズムを漂わせたビジュアルの美しさも特筆に値するだろう。

なお、イタリア公開版ではそのマルゲリティが監督として、さらにはフェリーニやアントニオーニの作品で有名なトニーノ・ゲッラが脚本家としてクレジットされているが、これは完全なる虚偽のクレジット。どうやら、カルロ・ポンティがイタリア政府からの助成金を目当てにクレジットを捏造させたらしい。一応、マルゲリティは『悪魔のはらわた』と本作の両方に参加しており、かつては「実際に演出をしたのはモリセイではなくマルゲリティだった」などとまことしやかに噂されたものだが、しかし実のところ第二班監督として一部のシーンを撮影しただけだったようだ。

もちろん、モリセイ監督のボスであるアンディ・ウォーホルも撮影に参加。ニューヨークから大勢のアントラージュを引き連れてローマ入りしたウォーホルは、プロデューサーという立場で本作の制作に携わったわけだが、しかし実際は形だけのプロデューサーだった模様である。一応、撮影に当たって幾つかのアイディアを出しはしたらしいのだが、しかし採用されたのは老化したドラキュラ伯爵が白髪交じりの頭髪や眉毛を黒く染めて若返りメイクするというオープニング・シーンのみで、助監督を務めたパオロ・ピエトランジェリや美術監督ジャンニ・ジョヴァノーニによると、撮影現場でウォーホルが喋っているところを見たことは殆どなかったらしい。

クレジット上の主演はディ・フィオーレ家の庭師マリオを演じるウォーホル映画の看板スター、ジョー・ダレッサンドロ。筋骨隆々の上半身を露わにしながら額に汗して薪を割るシーンなどは、まさしく「労働者階級のセックス・シンボル」といった風情で、フランケンシュタイン男爵家の下男を演じた前作『悪魔のはらわた』よりもはまり役。その美しさに思わず見とれてしまう。当時、イタリアではポール・モリセイ監督のダレッサンドロ主演作『フレッシュ』('68)や『トラッシュ』('72)が、そのスキャンダラスな内容ゆえに大変な話題となっており、アメリカでは一介のアングラ映画俳優に過ぎなかったダレッサンドロもイタリアではスーパースター扱いだったという。両作の撮影中からイタリア映画への出演オファーも相次いでいたそうで、あくせく働かないイタリアののんびりとした撮影現場を気に入ったダレッサンドロは、これを機にヨーロッパを活動拠点とすることとなる。

ドラキュラ伯爵役のドイツ人俳優ウド・キアーも、同じく『悪魔のはらわた』に引き続いての登板。同作でフランケンシュタイン男爵役に抜擢されてヨーロッパのマスメディアを賑わせ、一躍セレブリティの仲間入りを果たしたキアーは、撮影終了の間際に次回作のドラキュラ伯爵役をオファーされて舞い上がったという。実は、もともとドラキュラ役に内定していたのは、『悪魔のはらわた』で人造人間役を演じた東欧俳優スルジャン・セルノヴィッチ。それゆえ、撮影が終わればまたドイツの無名俳優に戻るのか…と名残惜しく感じていたキアーは、諸事情でセルノヴィッチが『処女の生血』を降板したことで、またもやドラキュラ伯爵という大役を手にすることが出来たのである。なお、ドラキュラ伯爵役が空席になるという噂はすぐさま業界を駆け巡ったそうで、フランスのトップスター、ジョニー・アリディなどがいち早く名乗りを上げていたらしい。その後、世界的なカルト映画スターとして息の長い活動を続け、ヨーロッパのみならずハリウッドでも大活躍したキアーだが、全ては本作『処女の生血』における怪演があったからこそ。これが真の出世作であったことは間違いないだろう。

前作でフランケンシュタイン男爵の助手を演じたドイツ人俳優アルノ・ユエルギングが、今回はドラキュラ伯爵の忠実(?)な執事アントン役。借金漬けの貧乏貴族ディ・フィオーレ侯爵には、イタリア映画界を代表する世界的な巨匠にして映画スターのヴィットリオ・デ・シーカが起用されている。実は、カルロ・ポンティが本作をプロデュースするにあたって唯一出した希望が、『ふたりの女』('60)や『昨日・今日・明日』('63)、『ひまわり』('70)など数々の名作で組んだ盟友デ・シーカを出演させることだったという。本作の封切りからほどなくしてデ・シーカは死去。結果的にこれが遺作となった。また、妻のディ・フィオーレ侯爵夫人役には'50年代の有名なファッションモデルにして、アンディ・ウォーホルのミューズでありファクトリーの母親的存在だったマキシム・マッケンドリー。女優としての実績はほぼないに等しいのだが、まるでハリウッド黄金期のスター女優のごとき威厳とオーラを放っているのはさすがである。

さらに、ディ・フィオーレ家の4姉妹を演じる華やかな女優陣の美貌も大きな見どころ。長女エスメラルダにはフェリーニやブニュエルなどヨーロッパの巨匠たちに愛された個性的な名女優ミレーナ・ヴコティッチ、次女サフィリアにはイタリアを拠点に活躍したフランス人女優ドミニク・ダレル、三女ルビニアにはダリオ・アルジェントの『サスペリア』('77)やベルナルド・ベルトルッチの『1900年』('76)でもお馴染みのステファニア・カッシーニ、14歳の末っ子ペルラには当時23歳だったイタリア式セックス・コメディのトップ女優シルヴィア・ディオニシオという顔ぶれ。もともとダレルとカッシーニは仲の良い友人同士だったそうで、「今一番イケている男前ジョー・ダレッサンドロに一目会いたい!」という理由でオーディションを受けたところ2人とも合格したのだという。カッシーニは本作に続いて、パスクァーレ・スクィティエッリ監督の社会派犯罪映画『傷だらけの帝王』('75)でもダレッサンドロと再共演。当時ベルナルド・ベルトルッチ監督の彼女だったカッシーニは、より若くてイケメンなダレッサンドロに乗り換えて2年間ほど付き合ったそうだ。一方、私生活で相当ヤンチャだったというドミニク・ダレルは、'78年に交通事故のため28歳という若さで逝去している。

なお、イタリアの田舎の居酒屋シーンにおいて、製作者ブラウンスバーグの盟友でもあるロマン・ポランスキー監督がカメオ出演しているのも見逃せない。実は本作の撮影中、ドラキュラ伯爵役のウド・キアーが別の映画にゲスト出演するため、2~3日ほどミュンヘンへ行かねばならなくなった。だからといって撮影をストップすわけにはいかない。そこで急遽、執事アントンが花嫁候補者の情報を得るために村の居酒屋を偵察するという、ドラキュラ伯爵抜きでも成立するシーンを撮ることとなり、たまたま当時ローマに滞在していたポランスキーが居酒屋の客として顔を出すことになったのである。ちなみに、ポランスキーの隣に座っているのがブラウンズバーグ、そして真向いがポランスキー映画の脚本家ジェラール・ブラッシュである。

日本でも海外でも既にブルーレイ化されている本作だが、筆者は日本盤よりも特典が満載のアメリカ盤をゲット。オリジナルネガから4K解像度でレストアされたという本編映像は、ほぼ文句なしのきめ細やかな高画質に仕上がっている。特典にはポール・モリセイ監督をはじめとする、スタッフやキャストの最新インタビューがこれでもか!と盛りだくさん。モリセイ監督は「ウォーホル映画」というブランドの陰に自分が隠れてしまったことで、映像作家として過小評価されていることがよほど腹に据えかねたのか、「映画を作ったのはウォーホルじゃなくて自分だ」「ウォーホルは物の善し悪しも見極められない凡人」「芸術についての見識など持ち合わせていなかった」「まともに話をすることすら出来ない植物人間」「自分が彼を有名にしてやった」とウォーホルの悪口ばかり並べ立てている。一方、現在は映画監督として活躍するステファニア・カッシーニが、撮影から50年以上を経た今も当時のまま殆ど変わらぬロケ地、ヴィラ・パリージを再訪するインタビュー・ビデオはファン必見。そのほか、90歳を過ぎた今もなお現役のミレーナ・ヴコティッチやすっかりお爺ちゃんになったジョー・ダレッサンドロ、作曲家クラウディオ・ジッツィに製作者アンドリュー・ブラウンズバーグなどの独占インタビューも感慨深いものがある。

評価(5点満点):★★★★☆


参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/1080p/音声:2.0ch DTS-HD Master Audio/言語:英語/字幕:英語/地域コード:ALL/時間:103分/発売元:Severin Films
特典:ポール・モリセイ監督のインタビュー('16年制作・35分)/女優ステファニア・カッシーニのインタビュー('21年制作・約18分)/俳優ウド・キアーのインタビュー('21年制作・約19分)/俳優ジョー・ダレッサンドロのインタビュー('21年制作・約28分)/女優ミレーナ・ヴコティッチの電話インタビュー('21年制作・約19分)/助監督パオロ・ピエトランジェリのインタビュー('21年制作・約15分)/美術監督ジャンニ・ジョヴァノーニのインタビュー('21年制作・約27分)/映画評論家スティーブン・スロワーのインタビュー('21年制作・約20分)/作曲家クラウディオ・ジッツィのインタビュー('21年制作・約20分)/製作者アンドリュー・ブラウンズバーグのインタビュー('21年制作・約23分)/オリジナル劇場予告編2種類



by nakachan1045 | 2025-12-09 14:21 | 映画 | Comments(0)

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