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なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧


映画/海外ドラマライターの「なかざわひでゆき」による映画&音楽レビュー日記
by なかざわひでゆき
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「少林寺秘棍房」 五郎八卦棍 (1984)

「少林寺秘棍房」 五郎八卦棍 (1984)_f0367483_21181393.jpg
監督:ラウ・カーリョン
製作:ローレンス・ウォン
   モナ・フォン
製作総指揮:ラン・ラン・ショウ
脚本:ニー・クァン
   ラウ・カーリョン
台詞:ディン・ユエ
   リー・ラン
撮影:ツァオ・アンスン
武術:ラウ・カーリョン
   キン・リー
   シャオ・ホウ
音楽:スー・チェンフー
   スティーブン・シン
出演:リュー・チャーフィー
   アレクサンダー・フーシェン
   リリー・リー
   ワン・ユー
   ラウ・カーウィン
   カラ・ワイ
   ロバート・マク
   シャオ・ホウ
   チャン・チンパン
   ヤン・ジンジン
   ラウ・カーリョン
   ワン・ランウェイ
   フィリップ・コウ
   ラム・ハクミン
香港映画/99分/カラー作品




デヴィッド・チャンやティ・ロンに続く美形カンフー映画スターとして、'70年代~'80年代半ばにかけて香港で大変な人気を博した俳優アレクサンダー・フーシェン。ショウ・ブラザーズの俳優養成学校を卒業して映画界入りしたフーシェンは、デヴィッド・チャンやティ・ロンと同じく武侠映画の巨匠チャン・チェ監督に見いだされ、チェン・カンタイとダブル主演を務めた『嵐を呼ぶドラゴン』('72)で一躍ブレイクを果たす。白人ハーフっぽい現代的で垢抜けた童顔の甘いマスクに、二枚目半のチャーミングで愛くるしい明朗快活な個性は、当時の若手カンフー映画スターの中でも異質だったと言えよう。なんというか、母性本能をくすぐるタイプ。ゆえに女性ファンからの支持は絶大だった。

以降も、武侠小説の大家・金庸の代表作「射鵰英雄伝」を映画化した超大作『射鵰英雄傳』('77・日本未公開)シリーズが大評判となり、サンフランシスコのチャイナタウンでロケされた『ヒーロー・オブ・カンフー 猛龍唐人拳』('77)はアジアのみならずアメリカでもヒット。残念ながら、代表作の殆どが劇場未公開に終わった日本では無名に等しいが、一時は香港映画を代表する国際的な映画スターのひとりだった。ところが、人気絶頂だった'83年7月6日、愛車の白いポルシェ911を運転していたフーシェンは、スピードの出し過ぎでコーナーを曲がり切れず丘の斜面に激突。28歳という若さで帰らぬ人となってしまう。当時、撮影終盤に差し掛かっていた主演映画は一時的に撮影中断するものの、しかし残されたフーシェンの出番を削って脚本を書き直すことで無事に完成。それが、結果的にフーシェンの遺作となってしまった武侠アクション『少林寺秘棍房』('84)だった。

時は10世紀、北宋王朝の時代。第2代皇帝・太宗のもとで数々の武勲を立て、多くの人々から尊敬されている将軍・楊業は、北方より侵略して来た蛮族・遼を討伐するため、それぞれ武芸に秀でた勇敢な7人の息子たちを引き連れて出征する。固唾を飲んで彼らの勝利を祈るのは、残された妻・佘賽花(リリー・リー)と8番目の長女・楊延琪(カラ・ワイ)、そして末っ子の次女・楊延瑛(ヤン・ジンジン)。占いによると「7子が出征し、6子が戻る」とのこと、これを「7人中6人が無事に帰ってくる」と解釈した佘賽花は、少なくとも我が子ひとりを失うことになる運命を嘆きつつ、しかしそれでもなお楊一門の名誉がかかったこの決戦に勝利せねばならぬと覚悟を決める。

ところが、楊業と7人の息子たちの行く手には卑劣な罠が待ち受けていた。その首謀者は北宋の重臣・潘美(ラム・ハクミン)。そう、楊業にとっては同僚である。密かに敵である遼と手を組んでいた裏切り者の潘美は、自分の息子が楊業のせいで戦死したと逆恨みしており、この機に乗じて楊一門を根絶やしにしてやろうと画策したのである。まんまと潘美の仕組んだ罠にはまってしまった楊一門。長男・楊延平(ワン・ユー)に次男・楊延定(ラウ・カーウィン)、三男・楊延輝(ロバート・マク)、そして七男・楊延嗣(チャン・チンパン)の4名は非業の死を遂げ、四男・楊延朗(シャオ・ホウ)は遼の捕虜となってしまう。さらに、五男・楊延徳(リュー・チャーフィー)は敵の大群に囲まれ死闘を演じるうちに行方不明となり、追い詰められた父親・楊業は自決。たったひとりだけ生き残った六男・楊延昭(アレクサンダー・フーシェン)は、傷だらけになりながらも我が家へと辿り着く。父や兄弟を殺されて正気を失った六男を迎え入れ、ようやく予言の意味が「7人中6人が無事に帰ってくる」ではなく、「7人中第6子だけが帰ってくる」だったと悟る母親・佘賽花。「今すぐにでも裏切り者・潘美に復讐を!」と憤慨する娘たちをなだめた彼女は、生還した六男・延昭の回復を待って皇帝に潘美の悪事を訴え出ようと考える。

その頃、九死に一生を得た五男・延徳は戦場から遠く離れた森の中を彷徨い、かつて北宋軍の将校だったという狩人(ラウ・カーリョン)に命を救われる。今のこの状況では復讐を試みたとしても失敗に終わる。私のように過去を捨てて、人生を一から出直すのだと狩人から忠告される五男・延徳。とんでもない!父や兄弟を殺された恨みを忘れることなど出来ようものか!と強く反発するも、しかし敵の軍隊による執拗な追跡はこんな森の奥深くまでも及び、延徳を守るために狩人が命を落としてしまう。とてもじゃないが自分一人で立ち向かえる相手ではない。そう思い至った延徳は仏門へ入ることを決意し、仏教の聖地・五台山にある清涼寺の門戸を叩く。延徳の表情に強く浮かび上がる異様な殺気を感じ取り、ここは貴殿の来るような場所ではないと門前払いしようとする住職(フィリップ・コウ)。それでもなお延徳は引き下がらず、押し問答の末に辛うじて入門を認められる。これまで敵を殺すための武術を習得して来た延徳に、誰の命も奪うことなく敵を痛めつけて二度と歯向かわせないようにするための武術を教える清凉寺の住職と僧侶たち。徐々にではあるが、延徳は心の平安を取り戻していく。

一方、生き延びた楊業の五男と六男の行方を突き止めて始末するため、彼らを裏切り者に仕立てたうえで楊家の屋敷を取り囲んで監視する潘美の軍隊と遼の密偵たち。さすがの潘美といえども、有力な名門一族である楊家を好き勝手には出来なかったのである。精神的なトラウマに苦しむ六男・延昭を屋敷の奥に匿い、全快するまで介抱し続けんとする母親と妹たち。そこへ清凉寺の僧侶が訪れ、五男・延徳が生きていることを伝える。どうやら延徳は弟・延昭が生きていることを知らないようだ。誰かが彼のもとを訪ねて、楊家を再建するため戻ってくるよう説得せねばならない。そう考えた母親・佘賽花は、まだ回復したとは言い難い延昭の代わりとして、長女・延琪を清涼寺へ向かわせることにする。ところが、その道中で延琪は潘美一味と遼の密偵部隊に捕らえられてしまう。現場から逃げ延びた味方の通報によって、可愛い妹が敵の捕虜となったことを知った五男・延徳は清凉寺の僧侶たちに別れを告げ、延琪を救い出すためたった独りで敵陣へと乗り込んでいくのだが…?

映画本編のクレジットには出てこないものの、本作は実在した北宋の名将・楊業(ようぎょう)とその一族にまつわる伝説をまとめた明代の小説群「楊家将演義」を原作としている。これらはあくまでも実話から派生した民間伝承=フィクションであり、史実とはだいぶ異なっているようなのだが、しかし非業の死を遂げた実在の英雄・楊業の根強い人気と相まって、これまでに幾度となく映画やテレドラマ、京劇の題材になるほど中華圏ではよく知られた作品だという。残念ながら筆者は全く馴染みがなかったのだが、どうやら本作で描かれているのは何世代にも渡る壮大な物語のごく一部を抜き出しただけに過ぎない模様。そのうえで独自の改変も加えているようだ。恐らく、本編に原作のクレジットがないのはそれゆえなのかもしれない。

愛する家族を殺されてしまった武芸の達人が、過酷な修行を経て巨大な悪に独りで立ち向かっていく…という基本プロットは武侠アクション映画やカンフー映画の定番。敵に追われた主人公が寺院の門戸を叩いて修業を積むという設定は、主演俳優リュー・チャーフィーの出世作にして代表作『少林寺三十六房』('78)を彷彿とさせるだろう。「少林寺秘棍房」という邦題も、同作に寄せたのであろうことは想像に難くありませんな。実際は少林寺と全くの無関係なのだけど(笑)。まあ、監督も同じラウ・カーリョンだし、ついでに言えば脚本のニー・クァンも同じなので、内容が似てしまうのもむべなるかなではある。ただ、ダブル主演を務めるアレクサンダー・フーシェンの事故死という悲劇が影響を及ぼしているためなのか、全体的に痛々しいまでの悲壮感が際立った作品と言えるかもしれない。ハッピーエンドであるはずのクライマックスにも、復讐のカタルシスよりも虚しさや哀しみが漂う。その点に関しては少々異質だと言えよう。

仏教において殺生は最も重い罪のひとつ。たとえ人間であろうと動物であろうと、むやみに命を奪ってはならない。その教えを厳格に守った清凉寺の棒術憲法が、本作におけるアクションの目玉となる。敵を殺さねばいずれまた襲われるのではないか?という五男・延徳。なるほど確かにごもっとも。それに対して、二度と襲われないように相手の牙を抜くという住職。こちらもまたごもっともではあるのだが、しかし動物相手なら分かるものの人間相手に牙とは?と首をひねっていると、クライマックスの大激突シーンで謎が解ける。なんと、棍棒を敵の口に突っ込んで片っ端から歯を引っこ抜いていくのだ(笑)。ギョエー!!!と大絶叫しながら、歯のなくなった口から大量の血を流して悶絶する敵の兵士たち。これはこれでなかなかの地獄絵図。ただまあ、このやり方で果たして本当に敵の戦闘意欲が削がれて、2度と襲ってくることもなくなるのかというと、はなはだ疑問ではあるのだけれど。だって、仮に総入れ歯でも普通に戦えますからな(笑)。

キャストはゴードン・リューことリュー・チャーフィーとアレクサンダー・フーシェンのダブル主演なのだが、先述した通りフーシェンが撮影途中で不慮の事故のため亡くなっているので、彼の演じる六男・延昭の出番も大幅に削られている。クライマックスの大立ち回りなどは、当初の脚本だと延徳と延昭の兄弟が清凉寺の僧侶らに助けられて復讐を果たす…という展開だったのだが、しかし撮影に入る前にフーシェンが他界したため脚本が書き直され、六男・延昭の代わりに長女・延琪が大活躍することになる。演じるは『レディクンフー 激闘拳』('81)のカラ・ワイ。女嫌いだったとされるチャン・チェ監督と師弟関係を結んだ唯一の女優であり、武術監督時代からラウ・カーリョンにアクション演技を徹底して叩き込まれた生粋のカンフー映画スターだけあって、リュー・チャーフィーと並んでも全く遜色のない見事な格闘アクションを披露してくれる。ショウ・ブラザーズの看板女優のひとりだった、当時30歳のリリー・リーが老けメイクを施して、70代になる楊一門の母親・佘賽花を演じているのも興味深い。老女ながらも息子たちに引けを取らぬ武術の達人…という設定ゆえ、さすがにガチの高齢女優に演じさせるわけにはいかなかったのだろう。また、ラウ・カーリョン監督が五男・延徳を助ける世捨て人の狩人役で登場するのも見逃せない。

日本では劇場未公開にしてテレビでも未放送。20年近く前に発売されたDVDが日本初登場だったわけだが、それっきり再発はされていない。一方、海外では英国に本社を置くビデオメーカー、Arrow Filmsがイギリス盤とアメリカ盤でブルーレイをリリース済み。オリジナルのカメラネガから2K解像度でレストアされたという本編映像は、完璧とまでは言わずとも十分に立派な高画質に仕上がっている。1.0chモノラルの音声トラックも悪くはない。特典には主演のリュー・チャーフィーやリリー・リー、その後スタント・コーディネーターに転身した次女役のヤン・ジンジンのインタビュー映像の他、本作の香港封切時に同時上映されたというアレクサンダー・フーシェンへの短編トリビュート映画も収録されている。

評価(5点満点):★★★☆☆


参考ブルーレイ情報(アメリカ盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/1080p/音声:1.0ch DTS-HD Master Audio/言語:広東語・北京語・英語/字幕:英語/地域コード:A/時間:99分/発売元:Arrow Films/Celestial Pictures
特典:中国史専門家ジョナサン・クレメンツによる音声解説/アジア映画評論家トニー・レインズのインタビュー('22年制作・約23分)/男優リュー・チャーフィーのインタビュー('04年制作・約20分)/女優リリー・リーのインタビュー('04年制作・約33分)/女優ヤン・ジンジンのインタビュー('04年・約32分)/短編映画「A Tribute to Alexander Fu Shen」('84年制作・約6分)/英語版クレジット・シーン/オリジナル劇場予告編/リバイバル版告編/フォトギャラリー(全54点)/フルカラー・ブックレット封入(24p)



by nakachan1045 | 2025-12-10 13:33 | 映画 | Comments(0)

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