なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「Condemned to Live」 (1935)

製作:モーリー・M・コーエン
脚本:カレン・デウルフ
撮影:M・A・アンダーセン
音楽:エイブ・メイヤー
出演:ラルフ・モーガン
ペドロ・デ・コルドバ
マキシン・ドイル
ラッセル・グリーソン
ミーシャ・オウアー
ルーシー・ボーモント
カール・ストックデイル
バーバラ・ベッドフォード
ロバート・フレイザー
フェルディナンド・シューマン=ヘインク
ヘイディ・ショープ
マリリン・ノウルデン
アメリカ映画/65分/モノクロ作品


物語の始まりはアフリカ某国。奥地へと向かった探検隊の一行は、白人を警戒する原住民たちに追われて洞窟へと逃げ込む。そこは巨大な吸血コウモリの棲み処とされており、恐れおののく付近の人々は決して近寄らないという。すると、そこで探検隊に加わっていた妊婦が産気づく。どうしたものかと手をこまねく男性陣。次の瞬間、洞窟内に女性の悲鳴が響き渡る。気付くと巨大な吸血コウモリが妊婦を襲っており、驚いた男性たちは慌ててコウモリを追い払うのだった。

それから数十年後。ヨーロッパ某国の小さな村で世にも奇妙な怪死事件が相次ぐ。死因はいずれも失血死。どの犠牲者も、体中から血液が抜き取られていたのである。検視を担当する村医者クリスタン教授(ラルフ・モーガン)は吸血コウモリの仕業を疑い、村人たちも海辺の洞窟で巨大な吸血コウモリが被害者を引きずり込む様子を目撃したと主張するが、しかし若きインテリ青年デヴィッド(ラッセル・グリーソン)は「吸血コウモリ犯人説」を真っ向から否定する。人間の全身から一滴残らず血液を吸い取り、なおかつ人間を洞窟内へ運び込むことの出来るほど巨大な吸血コウモリなど、この世には存在しないからである。

実は、村人から尊敬されている温厚なクリスタン教授こそが、一連の怪死事件を引き起こした犯人だった。夜な夜な、周囲が暗闇に包まれると発作を起こし、血に飢えた凶暴な吸血鬼へと変貌してしまうクリスタン教授。しかし、どうやらトランス状態に陥っているせいなのか、吸血鬼としての自覚も記憶も全くないため、自分が犯人だとは夢にも思っていなかった。唯一、その事実を知っているのはクリスタン教授の助手であるせむし男ザン(ミーシャ・オウアー)。しかし彼は、かつて教授に命を救ってもらった恩があるため口外などせず、それどころか教授へ疑いの目が向かないよう証拠隠滅まで図っていた。村人が洞窟で見かけた巨大な吸血コウモリとは、教授に殺された犠牲者の遺体を洞窟に隠そうとするザンの姿だったのだ。

そんなある日、クリスタン教授のもとを恩師ビゼット博士(ペドロ・デ・コルドバ)が訪れる。一連の騒動を聞いて、心配になってやって来たのだ。助手のザンが真相を知っていると見抜いて問いただすビゼット博士は、クリスタン教授が犯人だと聞いて「そうだったか、やはり…!」と深いため息をつく。というのも、ビゼット博士には心当たりがあったのだ。かつてクリスタン教授の両親はアフリカ探検隊に加わったのだが、そこで当時妊娠中だった母親(バーバラ・ベッドフォード)が巨大な吸血コウモリに襲われてしまった。そう、冒頭に登場した探検家夫妻はクリスタン教授の両親だったのだ。生まれてきた子供に吸血コウモリの影響が表れるのではないか。両親の死で孤児となったクリスタン教授の後見人として、長いこと懸念を抱いていたビゼット博士。幸いなことに何事もなく月日は流れたわけだが、ここへ来て遂に恐れていた症状が出てしまったのである。

一方、クリスタン教授自身も大きな疑問を抱き始めていた。どう考えたって、犯人はコウモリでなく人間であろう。しかも、いずれの事件もクリスタン教授の自宅からほど近い場所で起きていた。そういえば、このところ発作で記憶を失ってしまうことが度々ある。もしかすると、一連の怪死事件の犯人は自分かもしれない。不安に苛まれたクリスタン教授は、年下の恋人マーギュリト(マキシン・ドイル)との婚約を解消するべく彼女の家へ向かうのだが、そこで再び発作に襲われてしまう。吸血鬼となってマーギュリトに襲い掛かるクリスタン教授。後をつけてきたザンが止めに入ったおかげで、マーギュリトは間一髪で事なきを得るのだったが、しかし悲鳴を聞いて駆けつけた村人たちはザンのことを犯人だと勘違いし、暴徒の群れとなって彼を追い詰めようとする…。

本作で最も特筆すべき点は、やはりヴァンピリズム(=吸血鬼症)を狂犬病や新型コロナのようなウィルス性人獣共通感染症と見做したことであろう。母親の胎内で吸血鬼症に感染した主人公のクリスタン教授は、いわば生まれつきのヴァンパイア。大人になるまでその兆候は表れなかったのだが、しかし精神的なストレスなのか仕事の過労なのか、ハッキリとした原因は分からないものの、何かが引き金となって潜伏していた病気が発症してしまう。要は、ヴァンパイアとして覚醒してしまうのだ。といっても、あくまで感染症に罹った普通の人間にしか過ぎないため、例えば牙が生えたりとか鏡に姿が映らなかったりといったような超常現象とは無縁だし、十字架やニンニクや太陽の光などで退治できるわけでもない。まるでジョージ・A・ロメロの名作『マーティン/呪われた吸血少年』('77)を先駆けたような、さながらモダン・ホラー的なリアリズム重視の解釈と設定は、今から90年以上も前の映画としてはまさに先見の明だったと言えよう。

そのうえで本作は、自分自身では制御しようのない暴力衝動を抱えたクリスタン教授や、生まれつきの身体的特徴ゆえに疑いの目を向けられるザンといった、いわゆる「普通」ではない異形なる者たちの痛みや哀しみを浮き彫りにしていく。これもまた、'70年代のジャン・ローラン作品を先駆けたような要素ではあるが、しかし同時にユニバーサル・ホラー『フランケンシュタイン』からの影響も垣間見えるだろう。後に赤狩りでハリウッドを追放される女性脚本家カレン・デウルフの脚本は、所々でご都合主義的な矛盾がないわけではないものの、しかし全体的な印象としては極めて知的かつ文学的な香りの漂う仕上がり。フランク・R・ストレイヤー監督の演出自体は可もなく不可もなくだが、しかし『フランケンシュタインの花嫁』('35)や『ノートルダムの傴僂男』('23)の美術セット、チャールズ・ディケンズ原作の『脱獄鬼』('34)や『幻しの合唱』('34)の衣装など、ユニバーサル作品の資材を流用したゴシック・ムード溢れるビジュアルは悪くない。

ちなみに制作元のインヴィンシブル・ピクチャーズとは、'32年に映画製作者モーリー・M・コーエンが設立した独立系映画会社。同じく独立系であるチェスターフィールド・ピクチャーズの専属スタッフや配給網を使っていたらしいので、恐らく実質的には同スタジオの子会社的なポジションだったのだろう。両社は'33年に大手ユニバーサルとの業務提携を締結。これによってユニバーサルの撮影セットや撮影機材、録音機材を借りることが出来るようになった。本作でユニバーサル作品のセットおよび衣装が流用されている理由はそれだ。

マーヴィン・ルロイの歴史大作『風雲児アドヴァース』('36)でも共演する文芸映画や史劇映画に欠かせない名脇役ラルフ・モーガンにペドロ・デ・コルドバ、『襤褸と宝石』('36)でアカデミー助演男優賞候補になったミーシャ・オウアー、ジョン・バリモアの母親を演じた『我れ若し王者なりせば』('27)で知られるルーシー・ボーモントなど、玄人受けする渋い名優ばかりを揃えたキャスティングも映画に一定の風格を与えていると言えよう。なお、冒頭でクリスタン教授の母親を演じている女優バーバラ・ベッドフォードは、サイレント西部劇の傑作『モヒカン族の最後』('20)でヒロインを演じた無声映画スターである。

なお、本作は著作権保護期間を過ぎても更新手続きが行われなかったため、VHSの時代から数えきれないほどの海賊版ソフトがリリースされてきた。それゆえなのだろう、現在に至るまでオフィシャル版ソフトが発売された形跡はナシ。筆者が所有している米国盤DVDも、明らかに使い古した上映用フィルムよりテレシネされたビデオマスターを使用している。画質は細部が潰れていて粗いし、音声トラックもチリチリとしたノイズが全編に渡って走るような状態。いつの日か、良質なマスター素材を使用したオフィシャル版ソフトが登場することを願わずにはいられない。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(アメリカ盤)
モノクロ/スタンダードサイズ(1.33:1)/音声:1.0ch Dolby Digital Mono/言語:英語/字幕:なし/地域コード:ALL/時間:65分/発売元:Alpha Video
特典:なし
by nakachan1045
| 2026-01-19 15:30
| 映画
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