なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「Quando l'amore è sensualità(愛が官能的であるとき)」 (1973)

製作:ニノ・セグリーニ
クラウディオ・グラセッティ
製作総指揮:エンツォ・ドリア
原案:ルイジ・ルッソ
脚本:ルイジ・ルッソ
ヴィットリオ・デ・システィ
撮影:アルド・デ・ロベルティス
紳士衣装:エディ・モネッティ
音楽:エンニオ・モリコーネ
指揮:ブルーノ・ニコライ
出演:アゴスティーナ・ベッリ
ジャンニ・マッキア
エヴァ・オーリン
フランソワーズ・プレヴォー
フェミ・ベヌッシ
ウンベルト・ラホー
ジョヴァンニ・ロゼッリ
モニカ・モネット
リナ・フランケッティ
ネロ・リヴィエ
イタリア映画/89分/カラー作品


女優になることを猛反対していた父親から「半年以内に仕事にありつけなければ実家へ戻る」という条件で許しを得て故郷ミラノからローマへ上京し、ほどなくして名匠カルロ・リッツァーニの犯罪映画『ミラノの銀行強盗』('68)で映画デビュー。リナ・ウェルトミューラー監督の『Mimì metallurgico ferito nell'onore(名誉を傷つけられた鉄鋼労働者ミミ)』('72)で批評家に絶賛され、後に『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』((92)としてハリウッド・リメイクされた巨匠ディーノ・リージの傑作『Perfumo di donna(女の香り)』('74)でイタリア・ゴールデン・グローブ賞の助演女優賞を獲得、さらには同じくリージ監督の歴史劇コメディ『Telefoni bianchi(白い電話)』('76)でもダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の特別賞に輝いたという逸材である。年間5~6本の映画に主演した'70年代半ばが全盛期だろうか。その脱ぎっぷりの良さから、当時ブームだったアート系のソフトポルノやイタリア式セックス・コメディでも引っ張りだこだったが、まともな性教育を受けぬまま結婚した箱入り娘の戸惑いを描いた本作『Quando l'amore è sensualità(愛が官能的であるとき)』('73)は前者に該当すると言えよう。

舞台は北イタリアの風光明媚な古都パルマ。郊外の大邸宅に住む由緒正しい伯爵家の令嬢エルミニア(アゴスティーナ・ベッリ)は、地元で大規模な精肉工場を経営する新興成金の青年実業家アントニオ(ジャンニ・マッキア)と結婚する。ただし、継母であるサンフェリーチェ伯爵夫人ジュリア(フランソワーズ・プレヴォー)が勝手に決めた政略結婚だった。というのも、地元では誰もが知る名門伯爵家とはいえ家計は火の車。先祖代々受け継がれてきた大豪邸もすっかり朽ちかけており、地域の誇りゆえ歴史的建造物として保全すべきだとの声も強いが、しかし肝心の改修工事費用を工面することすらままならなかった。名誉はあるものの金はない伯爵夫人と、金はあるが名誉のない青年実業家の利害が一致したのである。しかも、淑女と評判のエルミニアは誰もが認める美貌の持ち主。アントニオにとっては誠に美味しい話だったのである。

ところが結婚初夜に大きな問題が発覚する。エルミニアが夫婦の営みを拒絶したのだ。厳格で潔癖な継母ジュリアに育てられた彼女は性の知識が殆どなく、そればかりか「セックスは汚らわしいもの」という固定概念を植え付けられていたのである。それゆえ、自分の肉体を求めるアントニオに対して嫌悪感を剝き出しにし、無理やりレイプしようとする夫に全力で激しく抵抗する。さすがのアントニオもそれ以上は手が出せなかった。「妻としての務めを果たさないとは何さまのつもりだ!」「妻とのセックスは夫として当然の権利なのに!」と憤慨するアントニオ。継母ジュリアも「女は時として嫌でも我慢せねばならぬことがある」「夫を喜ばせるのは良き妻の役割だ」と説き伏せようとするも、むしろエルミニアは母親の矛盾した言動に大きなショックを受ける。

あんな野蛮人と一緒に暮らせない!思い悩んだ末にエルミニアはピアチェンツァで暮らす実の姉アンジェラ(エヴァ・オーリン)のもとへ暫く身を寄せることにする。裕福な実業家フランチェスコ(ネロ・リヴィエ)と結婚したアンジェラは、モダンでラグジュアリーなアパートで優雅な生活を送っている。ただ、フランチェスコは出張ばかりで留守にすることが多く、暇と金を持て余したアンジェラは社交界の取り巻き連中と放蕩三昧で、仲間内の若い男性たちと適当にセックスを楽しんでいた。不倫にドラッグに飲み歩きに乱交パーティにと、アンジェラの退廃的なライフスタイルに驚いて嫌悪感を隠せないエルミニア。しかも、アンジェラの自堕落な行動は自分を顧みない仕事人間の夫へ対する当てつけであり、本心では孤独を抱えて愛情に飢えていたのだ。そんな姉の姿を間近で見たエルミニアは、やがて結婚そのものに大きな疑問と幻滅を感じるようになっていく。

一方、妻エルミニアが出て行ったのをいいことに、妖艶で好色な地主の未亡人(フェミ・ベヌッシ)や馴染みの娼婦などを屋敷へ連れ込み、独身時代と変わらず適当にセックスを楽しんでいるアントニオ。夜な夜な聞こえてくる破廉恥な物音に我慢ならない伯爵夫人ジュリアだったが、同時に長年ずっと抑えてきた淫らな欲望を刺激されて悶々とする。なにしろ、義理の娘2人を育てたとはいえ、まだ年齢はそれなりに若い。容姿だってそれほど衰えてはいない。若いアントニオを前にすると思わず体が疼いてしまう。そんなジュリアの様子に気付いたアントニオは、わざと彼女を挑発。我慢しきれなくなったジュリアは我が身を投げ出し、若くて逞しいアントニオの肉体にむしゃぶりつく。もはや彼なしではいられない。すっかり情欲の虜になったジュリアは、毎晩のようにアントニオの寝室へ忍び込んで快楽に溺れ、彼の帰りが遅い日には欲求不満と嫉妬で身悶える。そんなところへ、何も知らないエルミニアが帰ってきてしまった…!

サルヴァトーレ・サンペリやダミアーノ・ダミアーニなどの左翼系監督が好みそうな社会風刺型のエロティック・ドラマ。若年層に広がるリベラルな社会気運のもと、アメリカやイギリスと同様に「性の解放」が進んだ'60年代末~'70年代のイタリアだが、しかし本来は家父長制と男尊女卑が根強い極めて保守的なお国柄である。それゆえ、都市部の進歩的な若者たちは自由で平等な恋愛とセックスを謳歌する一方、地方へ行けば依然として前時代的な禁欲主義や男女不平等がまかり通っていた。そんな変化の過渡期にあった当時のイタリアで、男女の性愛を通して人間と社会の在り方を描いたのがサルヴァトーレ・サンペリ監督の『Grazie Zia(ありがとう伯母さん)』('68)や『スキャンダル』('76)であり、ダミアーノ・ダミアーニ監督の『痴情の森』('68)や『シシリアの恋人』('69)だったのである。

旧態依然としたイタリアの田舎社会の、とりわけ保守的な貴族階級の箱入り娘として、セックスに対して過剰な嫌悪感を植え付けられて育った若い女性が、妻は夫に奉仕すべしという田舎の家父長制的な価値観に強く反発し、かといって「モラルの退廃」としか言いようのない刹那的な都会の価値観にも馴染めず、両者の板挟みとなって苦悩するという本作も、基本的にはサンペリやダミアーニの流れを汲んだ映画と言えるだろう。ただ、どうも性的に抑圧された伯爵夫人ジュリアが娘婿アントニオとのセックスに溺れていく辺りから話が脱線してしまい、結局のところ何が言いたいのかいまひとつ分からなくなってしまったように感じられる。なんというか、社会派ドラマを気取ってみただけのソフト・ポルノという印象だ。

『アダムとイブVS食人族』('83)のルイジ・ルッソ監督が書いた原案を、ルッソ自身と共同で脚色して演出まで手掛けたのは、左翼系映画監督の代名詞とも呼ぶべきマルコ・ベロッキオの助監督だったというヴィットリオ・デ・システィ。そう、サンペリの代表作『青い体験』('73)をパクった童貞喪失映画『課外授業』('75)の監督である。なるほど、確かに選んだ題材はベロッキオの弟子らしいのかもしれないが、しかし残念ながら師匠のような作家性も気骨も持ち合わせていなかったと言わざるを得まい。巨匠モリコーネによるアバンギャルドな音楽スコアは悪くないが、しかし同時期に山ほど書いたジャッロ映画音楽の余りものという印象も否めない。

ただし、アゴスティーナ・ベッリをはじめとするキャスト陣はとても魅力的だ。中でもやはり、育ちの良いお嬢様ゆえ性に未熟で、男に都合の良い良妻賢母にも能動的に性を謳歌する自由な女にもなれないヒロイン、エルミニアの苦悩と反発と諦めと覚悟を演じるアゴスティーナ・ベッリが素晴らしい。映画の出来はいまひとつだが、しかし彼女の気迫に溢れた芝居は文句なしに見事である。美しいヌード・シーンもたっぷりでファンなら大満足。その夫アントニオ役のジャンニ・マッキアはフェルナンド・ディ・レオ監督が贔屓にしていた俳優で、ポリティカル青春映画の傑作『ゲバルトSEX』('69)の怒れる左翼青年役が特に印象深い人だが、本作では下品で無教養ながらも野心とバイタリティに溢れた成り上がり者を演じてハマっている。こちらもヌード・シーンはたっぷり。そういえば、本作は女性のヌードと同じくらい男性のヌードも出てくる。これぞまさしく男女平等(笑)。

そのほか、『キャンディ』('68)のブロンド・ロリータ娘エヴァ・オーリンに『恍惚の唇』('69)のフランソワーズ・プレヴォー、『黄金の7人・1+6/エロチカ大作戦』('71)のフェミ・ベヌッシと、ヨーロッパ産ジャンル系映画のファンには嬉しい豪華な女優たちの顔ぶれも要注目!そういえば、フランソワーズ・プレヴォーとジャンニ・マッキアは『恍惚の唇』の主演コンビでしたな。フェミ・ベヌッシはデ・システィ監督の『課外授業』にも出ていた。この頃の彼女は主に脱ぎ要員。ボディダブルを使ったハードコア・シーンを勝手にインサートされるなど、いわゆる性的搾取が横行するようになったイタリア映画界に辟易し、'80年代中ごろには女優業を引退してしまった。ダリオ・アルジェントの『歓びの毒牙』('70)や『私は目撃者』('71)でもお馴染みの名脇役ウンベルト・ラホーも、伯爵家に出入りしている胡散臭い生臭坊主役で顔を出している。

評価(5点満点):★★★☆☆
参考DVD情報(イタリア盤)
カラー/ワイドスクリーン(1.85:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:イタリア語・英語/字幕:イタリア語/地域コード:2/時間:89分/発売元:CG Home Video
特典:バイオグラフィー集
by nakachan1045
| 2026-01-29 22:23
| 映画
|
Comments(0)
以前の記事
2026年 03月2026年 02月
2026年 01月
2025年 12月
2025年 11月
2025年 10月
2025年 09月
2025年 08月
2025年 07月
2025年 06月
2025年 05月
2025年 03月
2025年 02月
2025年 01月
2024年 12月
2024年 11月
2024年 10月
2024年 09月
2024年 08月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
最新のコメント
| > Matemuさん .. |
| by nakachan1045 at 13:14 |
| 2024/6/5に発売さ.. |
| by Matemu at 05:08 |
| この映画はデンマーク軍が.. |
| by na at 08:27 |
| ランドマスターは本当にか.. |
| by na at 17:53 |
| > にこらさん コメン.. |
| by nakachan1045 at 01:32 |
| なかざわ様 前にあった.. |
| by にこら at 19:32 |
| DVDリリースされてまし.. |
| by ken at 22:53 |
| > kenさん 書.. |
| by nakachan1045 at 16:23 |
| チプリアーニの作品中でも.. |
| by ken at 11:36 |
| ひでゆきさん、ありがとう.. |
| by na at 16:19 |
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
ハリウッド映画(544)70年代(355)
ホラー映画(287)
60年代(269)
80年代(217)
イタリア映画(186)
アクション(135)
ドラマ(120)
ダンス(116)
50年代(108)
イギリス映画(107)
サスペンス(106)
ポップス(106)
カルト映画(95)
30年代(68)
ロマンス(60)
40年代(59)
日本映画(58)
70年代音楽(58)
2020年代音楽(50)
SF映画(46)
コメディ(45)
フランス映画(42)
80年代音楽(42)
ノワール(41)
90年代(40)
ジャッロ(39)
1920年代(37)
ソウル(36)
西部劇(35)
K-POP(34)
香港映画(32)
エロス(28)
スペイン映画(26)
ドイツ映画(26)
ファンタジー(23)
歴史劇(21)
ミュージカル(21)
ワールド映画(21)
サウンドトラック(21)
戦争(20)
2010年代音楽(20)
アドベンチャー(19)
メキシコ映画(18)
イタリア映画音楽(18)
テレビ(18)
アニメーション(17)
ラテン(17)
2000年代音楽(15)
1910年代(15)
ルーマニアン・ポップス(15)
スパイ(14)
90年代音楽(14)
ロシア映画(13)
アナウンス(11)
60年代音楽(10)
カナダ映画(9)
フィリピン映画(9)
ラウンジ(9)
ロック(9)
ロシア音楽(8)
青春(7)
バルカン・ポップス(7)
ジャズ(7)
シットコム(5)
フリースタイル(4)
2010年代(4)
連続活劇(4)
イタロ・ディスコ(3)
パニック(3)
フレンチ・ポップ(3)
LGBT(3)
J-POP(3)
2000年代(3)
韓国映画(2)
アンダーグランド(2)
トルコ映画(2)
オーストラリア映画(2)
カントリー・ミュージック(2)
フランス映画音楽(2)
ヒップホップ(1)
2020年代(1)
サルサ(1)
民族音楽(1)
伝記映画(1)
シャンソン(1)
文芸(1)
ギャング(1)
1920年代音楽(1)
カントリー(1)
インド映画(1)
ギリシャ音楽(1)
ブラジル音楽(1)
音楽DVD(1)
音楽ライブ(1)
ブログパーツ
最新の記事
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-03-09 00:34 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-03-08 00:53 |
| 「1968」 (1968) .. |
| at 2026-03-07 15:05 |
| 「L'Intégrale d.. |
| at 2026-03-06 23:10 |
| DANCE CLASSICS.. |
| at 2026-03-06 00:52 |

