なかざわひでゆき の毎日が映画&音楽三昧
「閉店時間」 Closing Time (1962)

浜野信彦
企画:藤井浩明
原作:有吉佐和子
脚本:白坂依志夫
撮影:中川芳久
美術:野間重雄
衣装デザイン:河野美智子
音楽:中村八大
主題歌:ペギー葉山 「恋をさがしている私」
出演:若尾文子
川口浩
川崎敬三
野添ひとみ
澁沢詩子
江波杏子
竹村洋介
大木実
潮万太郎
石井竜一
夏木章
中条静夫
村上不二夫
八潮悠子
日本映画/99分/カラー作品


同じ高校の先輩後輩という間柄で、学生時代から大の仲良しだった松野紀美子(若尾文子)に藤田節子(野添ひとみ)、牧サユリ(江波杏子)の3人。東京都内の大手百貨店・丸髙デパートに就職した彼女たちは、職場では別々の部署に配属されている。これからの時代は女性も男性と対等に渡り合って仕事をせねばと考える自立心旺盛で進歩的な紀美子、仕事はあくまでも腰かけで早く理想の男性と結婚して家庭に入りたいと願っている古風な良妻賢母型の節子、そして社会が女性に求めるのは若さと容姿だけなんだから存分にそれを利用して面白おかしく生きようと開き直る自由奔放なサユリと、それぞれ個性も性格も人生観も異なる3人だが、しかし休憩時間には社食でお互いに励まし合ったり社内の情報交換をしたり、閉店後には一緒に連れ立って繁華街へ遊びに出かけたりと、今も学生時代と変わらず強い絆で結ばれている。

呉服売場に勤務する紀美子。その真面目で精力的な働きぶりから課長(潮万太郎)にも高く評価されている彼女だが、しかしその一方で大卒の新入社員・生方誠(川口浩)には女だからという理由だけでコケにされて腹を立てている。「女は漫然と、ただ暇つぶしと小遣い稼ぎのために働いているだけ」「女のくせに出世でもするつもりか」などと誠に言われ、憤慨して猛反論したところ先輩社員にまで「君は女なんだから大人しくしていろ」と窘められて深く傷つくものの、しかし叩かれれば余計に「目にもの見せてやる!」と闘争心に火が付く紀美子。そんな彼女が仕事と同じくらいの情熱を注いでいるのが、視覚障碍者向けに書物の朗読をテープに吹き込むテープライブラリーのボランティアだ。社会の一員として誰かの役に立ちたいと考えてボランティアを始めた紀美子は、いつしか指導教官を務める声優の鶴岡(大木実)に想いを寄せるようになる。彼のように知的で包容力のある年上の男性が理想だったのだ。ところが、鶴岡は既婚者だった。ショックを受けつつも諦められない紀美子。その一方で、お互いをライバル視する天敵、誠との間柄も急接近していく。

家庭的で料理上手を自負する節子は、地下の食品売場で総菜コーナーを担当。早く結婚したいと焦っている節子だが、実のところ恋愛にはかなり奥手だ。そんなんじゃダメよ!と紀美子に突っ込まれ、勇気を出して繁華街での逆ナンパを実践してみるも撃沈。ある時、職場で仲の良い女子店員(澁沢詩子)からグループデートに誘われた節子は、食品売場に出入りしている下請け会社の担当社員・竹井安雄(竹村洋介)に声をかけてみる。それまであまり安雄のことを意識したことなかったものの、地味だが真面目で誠実な人柄に心動かされていく節子。ところが、そんな2人の関係を快く思わない食品売場の中山主任(村上不二夫)が安雄に対して露骨な嫌がらせをし、さらには節子に対しても理不尽な叱責をする。あまりの仕打ちに泣いて落ち込む節子。なぜ中山主任はあんな意地悪をするのか。理由は誠にバカバカしいものだった。大手企業である自社の女子社員が、格下である下請け会社の社員と付き合うことを、会社の面汚しだと考えていたのだ。なんて古臭い考え方だろう!絶対に戦ってやる!と紀美子ばりに闘争心を燃やす節子だったが、しかし中山主任に因縁を付けられた安雄が丸髙デパートの担当から外されてしまう。

百貨店の花形スターであるエレベーターガールを務めるサユリ。男性客からラブレターを貰うくらいの目立つ美人で、なおかつ何人ものボーイフレンドを持つ自由奔放な遊び人の彼女は、それゆえ社内でもなにかと後ろ指をさされがちだ。姉貴分の紀美子は「悪い噂が立たないように気を付けなさい」と心配するが、しかしサユリ本人は全くのどこ吹く風。女が良い思いを出来るのは若くて綺麗なうちだけ。だから自分の好きなようにさせてもらうわ!というわけだ。そんな彼女がちょっと気になっているのが、宣伝部に所属するエリート広告マンの畠英也(川崎敬三)。甘いマスクの遊びなれた2枚目で、なおかつ女を喜ばせる手練手管にも長けている。それまで大勢の男性たちからモテても、自分から誰かを本気で好きになることなどなかったサユリは、それゆえ初めて恋をした英也にとことん夢中になっていく。他のボーイフレンドたちとの関係を全て清算し、私と結婚して!と英也に逆プロポーズをする積極的なサユリ。ところが、英也は妻子のある既婚者だった。ショックで取り乱すものの、かといって諦めきれないサユリは、そのままズルズルと「不倫関係」を続けることに。そのうえ、会社内では彼女がコールガールをしているとの噂が立ってしまう。

かくして、仕事でも恋愛でも悩みの尽きぬ紀美子と節子、そしてサユリの仲良し3人組。果たして、彼女らはその高い壁をいかにして乗り越え、自分の望むような理想の人生を切り拓いていくのか…?

男と対等にバリバリと仕事をしようとしても、どうせ女は結婚して辞めるからと軽くあしらわれ、自分の意見を主張しようものなら「女のくせに」と口を塞がれ、どれだけ頑張っても「女だから」という理由でとても出世など望めない。そもそも女性社員に求められるのは才能や能力よりも、常連の顧客を繋ぎとめることが出来て、なおかついずれは男性社員のお嫁さんになれる若さと美貌。かといって派手にやり過ぎると、「ふしだらな女」と一方的なレッテルを貼られて白い眼で見られる。そんな昭和の働く女性たちが直面する様々な障害を全編に散りばめつつ、持ち前の若さとやる気と根性で「女の幸せ」を掴もうとする前向きなヒロインたちの溌溂とした姿を通して、当時の変わりゆく日本社会の一面を鮮やかに切り取った作品。登場人物の多い群像劇ながらも脚本の交通整理がとても良く出来ており、なおかつ畳みかけるようにスピーディでアップテンポな演出がまた実に小気味が良い。

監督を手掛けたのは、黄金時代の日本映画界を代表する娯楽映画職人・井上梅次。一応、共同監督として浜野信彦の名前も小さくクレジットされているが、この軽妙洒脱で洗練されたタッチは間違いなく井上梅次の持ち味であろう。フェミニズム的なメッセージ性の高さは、もちろん有吉佐和子の原作由来なのだろうと思うが、しかし若い女性の赤裸々な本音の垣間見える生き生きとした台詞からは、鬼才・増村保造とのコラボレーションで知られる、当時29歳だった新進気鋭の脚本家・白坂依志夫の鋭い人間観察眼が感じられるだろう。浮かび上がる日本社会の根深い男尊女卑問題、当時に比べるとだいぶ改善されたと感じるものの、それでもまだまだあまり変わらない所もありますな。とにかく、プログラムピクチャーとしても社会派ドラマとしても出来栄えは優秀である。

なおかつ、古き良き日本のデパート文化を今に伝える…という意味でも興味深い作品と言えよう。今から60年以上前の「デパ地下」のなんとシンプルで庶民的なことか。まだレジの機械が存在しないので、売り子はお客さんが購入する商品それぞれの単価と点数を会計係に伝え、その場で正確な合計金額を弾き出してもらわねばならない。なので、ピークタイムの混雑時にやっぱり一部を別の商品と変えてくれなんて言われたら、そりゃため息のひとつでもつきたくなるってもんだ。1着7万円の訪問着、1個7円のコロッケというのも時代を感じさせる。今や物価は当時の20倍以上か。そういえば、エレベーターガールというのも近頃はすっかり見かけなくなりましたな。デパートでファッションショーが行われていたというのも面白い。ロケに使われたのは高島屋の横浜店。劇中では高島屋のロゴマークがそのまま丸髙デパートのロゴマークとして使われている。

気が強くて野心と向上心の高い紀美子役に若尾文子、お茶目で愛らしい下町娘的な節子役に野添ひとみ、自由で大胆で奔放なサユリ役に江波杏子という配役もまさに適材適所。男優陣も大卒エリートの嫌味な感じを巧く出している誠役のお坊ちゃま俳優・川口浩、女たらしの軟派な二枚目ときたらこの人以外に考えられんでしょう!という英也役の川崎敬三と、こちらもドンピシャのはまり役ばかり。素朴で誠実な好青年・安雄を演じる新人俳優・竹村洋介は他であまり見たことのない人だが、こちらも全身から「いい人感」が溢れ出していて好演である。また、同じ井上梅次監督の『黒蜥蜴』('62)では明智小五郎を演じた大木実が、こちらでは紀美子が憧れる朗読の先生・鶴岡役。ゲスト出演的な扱いで出番は少ないが重要な役どころである。

評価(5点満点):★★★★☆
参考DVD情報(日本盤)
カラー/ワイドスクリーン(2.35:1)/音声:2.0ch Dolby Digital Mono/言語:日本語/字幕:なし/地域コード:2/時間:99分/発売元:株式会社KADOKAWA
特典:劇場予告編
by nakachan1045
| 2026-03-12 00:13
| 映画
|
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